第323話:魔人ホルモーン
「……なんですって? 斥候の一人が帰ってこない?」
魔人ホルモーンは部下の魔人からの報告を受けて怪訝な声を漏らす。
「は、はい。連絡も途絶えておりまして、その直後には巨大な魔力が感知されてもおります」
(……まさか、私たち魔人に対抗できる人間がいるとでも? ……これは、当たりを引いたのかもしれませんねぇ)
思案顔を浮かべながらそう考え、ホルモーンは部下に別の指示を出した。
「別の斥候からの報告にあった人間どもの村を襲いなさい。そうすることで斥候を殺した人間が姿を現すはずです」
ホルモーンの指示を聞いた部下は頭を下げながら、その顔は下卑た表情に変わっている。
「……ホルモーン様、人間を食ってもいいんですか?」
「もちろんです。人間は私たちにとって捕食対象なのですからね」
「ありがとうございます! すぐに他の者にも伝えてきます!」
喜びの声をあげながら部屋を出ていった部下を見送り、ホルモーンは恍惚の表情を浮かべながら両手を広げた。
「あぁ……ああっ! これで魔王様からの指示を達成することができる! そうすればまた直接声を掛けていただけることでしょう!」
未来の自分を想像しながら広げた両腕で自らを抱きしめ、体をブルブルと震わせるホルモーン。
斥候の魔人が倒されたと聞いた時は正直驚いたものの、すぐに些細なことだと考え余裕を持っていた。
「斥候など、魔人の中でも底辺の存在ですからねぇ。側近中の側近である私であれば、まず間違いなく殺せるでしょう」
そう考えると笑みが崩れることはなく、むしろ深まるばかりだ。
「あぁ、早く人間を殺したい……神級職を殺してやりたい!」
武者震いでさらに体がブルブルと震え、呼吸も荒くなっていく。
「はぁ、はぁ……うふふ、いいですねぇ……興奮してきましたああああっ!」
先ほどは人間の村を――温泉街を襲えと指示したホルモーンだったが、待っているだけではこの高ぶりを抑えられないと理解した。
「私が先陣を切りましょう! そして迅速に、確実に人間どもを駆逐するのです!」
やるべきことは決まったと言わんばかりに部屋を出ていったホルモーンは、部下たちが集まっている場所へ赴き声をあげた。
「皆さん! 人間の村を襲いましょう! 私も共に参ります! いいですか? 迅速に、そして確実に人間どもを駆逐するのですよ!」
「「「「うおおおおぉぉっ!」」」」
ホルモーンが突然に現れたのを見た部下たちは驚きを見せたが、やることが変わらないと知るや歓喜の声をあげた。
「では参りましょう! いいですか、人間どもを駆逐するのですよ!」
こうしてホルモーンの軍勢は、温泉街へ向けて進軍を開始したのだった。
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