第321話:魔王と魔人 12
俺はぶどうを魔法鞄から取り出し、口に放り込んでから一気に駆け出す。
数回の咀嚼から飲み込みと、俺の速度は倍になる。
「外すんじゃないわよ、桃李!」
『フォスフォス!』
『ピギャアアアアッ!』
足止めをしているユリア、フォス、サニーが声をあげる。
俺だって外すつもりはない。
「鑑定! 断絶の刃を命中させる方法!」
鑑定スキルを使って狙う場所を確認し、万全の体勢から断絶の刃を振り下ろした。
『こんな攻撃で俺がやられるわけが――!?』
俺の存在に気がついた人型魔獣が断絶の刃めがけて拳を突き出した。
本来であれば接触と同時に剣身が砕かれ、俺は殴り飛ばされると同時に肉体が引きちぎれていたことだろう。
だが、断絶の刃は人型魔獣の攻撃に耐えきるだけでなく、魔力を得た切れ味を持って相手の拳を左右に斬り裂いた。
『そんなばかな――ぐああああああああぁぁっ!!』
「うおおおおっ!!」
無意味な捨て台詞なんて、言わせてやる義理はない。
俺は構うことなく断絶の刃を振り切り、拳から腕、そのまま体を斜めに両断していく。
およそ人が出せる声量ではないくらい大きな声で悲鳴をあげると、超音波になったのか周囲の木々が激しく震えた。
「……やったか?」
『この程度で、俺様が死ぬわけないだろう!』
「嘘だろ、くそっ!」
右肩から左わきを抜けて両断されたはずだが、人型魔獣は顔が残っている上半身で声を荒らげた。
もしかすると下半身も動き出すかもしれない、そう思った俺は慌てて距離を取ろうとしたものの、大量の魔力を一度に消費した反動からか、足がおぼつかない。
「くっ!」
『殺す! 貴様だけは、絶対に殺してやる!』
『ビギャアアアアッ!』
「サニー! どわあっ!?」
人型魔獣が左腕だけで地面を這うように移動してきたところで、サニーが上空から急降下してきた。
そのまま一撃を加えて終わり――かと思ったが、サニーは攻撃ではなく救助を優先し、俺の服の襟をくちばしで加えて舞い上がった。
「……ざ、ざにー、ぐる、じい」
『ピギャッ!?』
その後、サニーは高い木のてっぺんに着地すると、俺は近くの枝を掴んでその上に降りた。
「ごほっ! ごほっ! ……けほっ」
『……ピキャー?』
「ううん、怒ってない。むしろ助かった、ありがとう」
『ピキャン!』
あのままだと、上半身だけとはいえ人型魔獣に殴られて殺されていたかもしれない。
そう考えるとゾッとするし、この場にいるのが俺とサニーだけだと気づいてハッと下へ視線を向ける。
「ユリア! フォス!」
二人が襲われているかもしれない、そう思った俺は名前を呼びながら飛び降りる準備を整えたのだが。
「油断大敵ね、桃李はー」
『フォスフォス!』
「……マジかよ」
懸念していた下半身が動き出すことはなかったようで、左腕が残った上半身のだけの人型魔獣を相手に二人は攻勢に出て、気づけば倒してしまっていた。
……ほとんど動けない状況でボコボコにされたのかと考えると、少しだけ人型魔獣に同情してしまうな。
「……っと、そうだ。念のためにこいつを鑑定しておくか」
遭遇した時点でそうしておけばよかったのだが、魔獣の居場所で鑑定した結果がこいつだったこともあり、まずは倒すべきだという思考になっていた。
だが、人語を介する魔獣など見たことがなく、その時点で相手が異形であると気づくべきだったのかもしれない。
「……なんだ、こりゃ? まさか、あいつが?」
鑑定画面に出てきた文字を見て俺は驚愕してしまう。
そこに書かれていた文字はなんと――魔人だったのだ。
※※※※
【書籍3巻本日発売!】
本作の書籍版『職業は鑑定士ですが【神眼】ってなんですか? ~世界最高の初級職でいきたい~』3巻が本日05/25(木)に発売されます!
▼タイトル
『職業は鑑定士ですが【神眼】ってなんですか? ~世界最高の初級職でいきたい~』3巻
▼発売日
2023/05/25(木)
▼イラスト
ゆのひと先生
▼ISBN
9784046824837
▼書影添付の近況ノートURL
https://kakuyomu.jp/users/toguken/news/16817330656379698455
大量に加筆・修正を加えた3巻の結末は、とてもハッピーで、桃李とアリーシャの幸せな表情が見られることをお約束いたします!
皆様、ぜひぜひよろしくお願いいたします!
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