第319話:魔王と魔人 10

 なんだろう、こんなにも近い魔の森なのだが、とても久しぶりな感じがする。

 長い間でシュリーデン国とロードグル国で過ごし、戻ってきてからも王都へ行ったり、再びロードグルへ向かったりで、魔の森からだいぶ離れてしまっていた。

 その間、他の面々が魔獣狩りを行ってくれていたが、開拓までは進められていない。

 そもそも、開拓には俺の鑑定が必須なのだから仕方がないのだ。


「森谷の問題が解決したら、魔の森の開拓にも着手しないとだなぁ」

「その前に魔導具の試し撃ちでしょう?」

「それはそうなんだが……ユリア、なんでお前はやる気満々な格好をしているんだ?」


 ユリアは俺の護衛としてついてきてくれているだが、完全武装で前に出る気満々の格好をしている。

 今回前に出るのは俺であって、ユリアではない。


「どうせ桃李のことだし、絶対に危なくなるでしょう? だったら完全武装の方がいいじゃないのよ!」

「なんで危なくなるの前提で動いているんだよ!」

「護衛の鉄則! ……って、ライアンさんが言ってたわよ?」

「ライアンさんが? ……なら、正しいか」


 兵士長であるライアンさんの言葉なら、間違いないだろう。


「何よ、その反応は! 私じゃ信用できないってこと!!」

「まあ……そうだろうなぁ」

「ひっどー! それじゃあ絶対に危なくならないでよね!」

「いいぜ、やってやろうじゃないか!」


 こっちには鑑定スキルがあるんだから、そうそう危ない場面に出くわすことなんてないはずだ。

 ……この勝負、俺の勝ちだな。


「それじゃあまずは――鑑定、魔獣の居場所」


 鑑定スキルで魔獣の居場所を把握する。

 近くにはいないが、もう少し森の奥に進めば大きいサイズの魔獣がいるようだ。


「こっちだな、行こう」

「はいはーい」


 軽い返事のユリアを伴い進んでいく。

 サニーは現在、フォスの頭に乗ってくれている。魔導具の試し撃ちに巻き込まないようにするためだ。

 巻き込むなんてことはないと思うが、念のためである。


「……いた、あいつだ」


 魔獣を見つけた俺たちだったが、そいつは見たことのないタイプの魔獣だった。


「……何よ、あれ?」

「……ユリアも見たことがないのか?」

「……そりゃそうでしょうよ。ってか、桃李もなの?」

「……あぁ」


 二足歩行の魔獣は何度か見てきたが、それでもどこか獣っぽい姿の魔獣が多かった。

 だが、目の前の魔獣はどちらかと言えば人間に近い見た目をしている人型だったのだ。


「……ねえ、桃李。本当に大丈夫なのよね?」

「……分からん。ごめんだけど、臨戦態勢だけはしておいてくれ」


 人型の魔獣が弱いわけがない。それは俺がラノベを読んできた中での常識に近い知識でもあった。

 ここで変にプライドを優先させる必要はない。ユリアに助けられるのも可能性の中に入れておかなければならない。


「……うん、分かった」


 そして、ユリアも危険を感じ取ったのか、俺に変な文句をつけるでもなく、すぐに臨戦態勢を整えてくれた。


「……よし、それじゃあ、やるぞ!」


 ユリアの準備が整ったのを見て、俺は出来上がったばかりの魔導具を起動させた。

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