第316話:魔王と魔人 7

 ディルクさんへの報告を終えた俺たちは、すぐにグランザウォールへ戻ることにした。

 本当なら明日の朝、羽毛布団の使い心地を聞いてみたい気持ちも少なからずあったが、熟睡するだろう二人が何時に目覚めるかもわからないので遠慮することにしたのだ。

 ……絶対に、寝坊するだろうからね。


「全く、忙しい奴だな」

「そりゃもう、忙しいですよ」

「……早いところ、お前たちが忙しくならない世界になってほしいものだな」


 苦笑しながらそう口にしたディルクさんに、俺は首を傾げてしまう。


「……別に忙しいからといって、面倒だとかは思っていませんよ?」

「……そうなのか?」

「はい。大変だなとは思っていますけど、大半は楽しく過ごしていますからね」


 ……あれ? 俺、何か変なことでも言っただろうか。

 ディルクさんは驚きの顔のまま、視線を俺からアリーシャへ移動させた。


「まあ、トウリさんですから」

「それで済ましていいことなのか?」

「まあ……トウリさんですから」


 えっ? なんだか俺、めっちゃ特殊な人間みたくなってないか?

 アリーシャの言葉にディルクさんは大きなため息をついていたが、何故かすぐに納得したのかいつもの表情に戻っていた。


「……えっ? ディルクさん、なんか納得しちゃいました?」

「そうだな」

「今の説明で、なんで納得できるんですか?」

「なんでだと? ……それはまあ、トウリだからだろう」

「全く同じ説明じゃないですか!」


 ちょっと待て! それは俺が納得できないんだが!


「当然だ。さあ、さっさと行け。俺も暇じゃないんだ」

「ダメだ! 説明を求めますよ!」

「さあ、行きましょうか、トウリさん」

「アリーシャまで! ちょっと待って! まだ話が――」


 俺はまだ言いたいことがあったのだが、アリーシャに転移魔法陣の上まで腕を引かれ、ディルクさんの合図で魔導師が転移を起動させた。


 ◆◇◆◇


「…………納得いかん!」


 どうして俺なら仕方ないという答えに行きつくのだろうか。

 ある程度は納得するようにしていたが、今回のはどれだけ考えても納得できない。

 内容にもよるけど、忙しいのはいいことだと思うようにしているし、自分の考え方を間違いだとも思いたくない。

 大変だけど、それを乗り越えられたら楽しくもあるし、そもそも俺は今の生活を楽しめている。

 少し前までは追い詰められていた感もあるけど、それもまた今になっては楽しい記憶になっているのだから。


「まあまあ、トウリさん。ディルク様も悪気があって言っているわけではありませんから」

「いや、それはわかっているんだよ。でもなぁ……アリーシャまで同じ意見だったじゃん?」

「それは……そうですね」


 そう口にしたアリーシャはクスクスと、それでいて楽しそうに笑った。


「なんで笑うんだよ」

「だってトウリさん、かわいいんだもの」

「か、かわいい? ……どこがよ?」

「全部です」


 ……ダメだ、全くわからん。

 というわけで、こんなことに鑑定スキルを使うのも勿体ないと思った俺は、魔王復活に向けてやれることをやることにしたのだった。

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