第315話:魔王と魔人 6

 森谷との約束を果たした俺たちは、ディルクさんの部屋と戻った。魔王について説明を行うためだ。


「それで? 大陸規模の問題というのはいったいなんなのだ?」

「魔王が復活します」

「……ま、魔王、だと?」


 うんうん、そりゃあ疑いの眼差しを向けたくもなりますとも。そうでしょうとも。

 俺だって他人から聞かされたら『はい?』とか言っちゃいそうだもんなぁ。

 しかし、これは事実だ。俺の鑑定士【神眼】がそう示してしまったのだから。


「はい。俺も驚きましたし、ウィンスター陛下も驚いていましたけど、これは事実なんです」

「……まさか、お前の鑑定スキルがそう言っているのか?」

「はい」


 俺が素直にうなずくと、ディルクさんはどうにも気まずそうな表情を浮かべた。


「どうしたんですか?」

「いや……お前の鑑定スキルを疑うわけじゃないんだが、さすがに魔王の復活というのはなぁ」

「まあ、そうなりますよねぇ」


 ディルクさんの反応も当然なので、俺はどうやって信じてもらおうかと思案する。


「……あの、ディルク様?」


 そこで口を開いたのはアリーシャだった。


「どうしたのだ?」

「トウリさんの鑑定スキルは、間違いないと思います」

「……というと?」

「トウリさんは私たちの故郷、そして私が治めているグランザウォールを、鑑定スキルを使って救ってくれました」

「うむ、我もトウリの鑑定スキルには助けられた一人だからな、よく理解している」

「ならば、信じてあげてもいいのではないでしょうか? 私は信じています、トウリさんの鑑定スキルを。そして、トウリさん自身を」


 アリーシャはディルクさんを目をまっすぐ見つめながら、力強い口調で告げてくれた。

 ……ここまで信じてもらえていることが分かると、素直に嬉しいものだな。

 だからといってディルクさんが信じてくれるかどうかは分からない。


「……トウリには勿体ない相手だな」

「相手って、どういうこと?」

「なんでもないさ。だがまあ、これだけお前のことを信じている者がいるのだから、俺もそれにあやかってみてもいいかもしれんな」

「信じてくれるんですか?」

「あぁ、信じてみよう」


 まさか、こうも早く信じてもらえるとは思わなかった。

 これは間違いなく、アリーシャのおかげだな。


「となると、こちらも色々と備えなければならんな」

「大陸規模の問題ですからね。どこで何が起きるか分かりません」

「何が起きるのかを鑑定することはできんのか?」

「現状、そこまでは出てきませんね。でも、魔王ですよね? 少なくとも、敵が現れると考えていた方がよさそうですね」


 魔王が現れるということは、その配下が出てくることも考えられる。

 まさか魔王と呼ばれる相手が、配下の一人もいないなんて考えにくいしな。


「フィリアにはより一層、騎士たちを鍛え上げるように伝えておこう」

「そうそう、もう一組の羽毛布団はフィリアさんにお渡しするんですよね?」

「……何故そう思うのだ?」

「いや、なんとなく?」


 大事にしているから、とは正面切って言えずにやや誤魔化してみる。


「……まあ、そうだな。フィリアも俺と同じくらいに頑張ってくれているし、最近は寝不足だとも口にしていた」

「女性の寝不足はお肌の大敵ですからね。ぐっすりお休みになられると思いますよ」


 フィリアさんが寝不足だと知るや否や、アリーシャがそう口にした。

 その顔は笑顔を浮かべているものの、羽毛布団を絶対に使わせて寝かせるよう訴えているような迫力を持っている。

 気のせい……だとは思えないくらいの迫力なのだ。


「……わ、分かった。今日中に必ず渡しておこう」

「よろしくお願いいたします」


 ……今度、女性のお肌を守る何かを作れるか考えてみるか。知識はないけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る