第313話:魔王と魔人 4

 グランザウォールへ戻った俺は、すぐに羽毛布団を用意してロードグル国へ転移した。

 突然の転移だったにもかかわらず、ロードグル国の兵士たちはすぐにディルクさんへ取り次いでくれた。

 どうやら俺たちがロードグル国奪還に手を貸したことは多くの者に知れ渡っているようで、ディルクさんも何よりも優先して対応するように言づけていたようだ。


「ありがたい限りですが、私も一緒でいいのでしょうか?」

「もちろんさ。そうじゃなかったら、ディルクさんに文句を言ってやるよ」

「いえ、止めてください。相手は一国の王なんですよ?」


 心配そうに口にしたアリーシャに笑みを向けながら、俺たちは案内された部屋の前で止まった。


 ――コンコン。


『――入れ』


 案内してくれた兵士のノックに応えて中から声がすると、その兵士は扉を開いて中に入るよう促してくれた。


「失礼します」

「し、失礼いたします」


 中に入った俺が見たものは、膨大な書類に目を通していたディルクさんの姿だった。


「久しぶりだな、トウリ」

「お久しぶりです。……なんだか、大変そうですね」

「まあな。しかし、つい先日戻ったかと思えば、すぐにやってきたものだな」


 見ていた書類に目を通し終わったのか、ディルクさんは目頭を軽く指で押さえながら顔を上げた。


「はい。森谷との約束で、寝具を持ってきました」

「寝具だと? ……まぁいい。それよりも、そちらの女性はトウリの婚約者か?」

「こんっ!? ……転移魔法陣が設置されているグランザウォール領主、アリーシャ・ヤマトだ」


 婚約者と言われて言葉に詰まってしまったが、俺は気を取り直してアリーシャを紹介した。


「……」

「……んっ? どうしたんだ、アリーシャ?」

「なんでもありません!」


 な、なんで怒っているんだよ! えっ、何か悪いことでもしたか、俺!?


「くくくくっ、どうやらお前は女心というものを分かっていないようだな」


 そしてどうしてそこで笑いだすかな、ディルクさん!


「俺はロードグル国の国王、ディルク・ロードグルだ」

「アデルリード国のグランザウォールにて領主を務めております、アリーシャ・ヤマトと申します」

「いろいろと大変そうだな」

「……そのようです」


 なんだよ? 何が大変だって言いたいんだ?


「おっと、これ以上は止めておくか。どれ、タイキのところへ向かうとしよう」

「……分かった」


 追求しようにも、これ以上は何を言っても答えてくれそうにない雰囲気だ。

 特にアリーシャなんか、こちらにジト目まで向けている始末。

 ということで、俺はディルクさんの提案通り森谷のもとへ向かうことにした。


「場所が地下牢というのがどうにも心苦しいところだな」

「そうですね」

「移動はできないんですか?」

「あぁ。魔法の制約なんだろう、あの場所から動かすことができないようだ」


 移動しながらの会話に、アリーシャは暗い顔を浮かべてしまう。


「大丈夫だ。絶対に森谷を助ける方法を見つけてやるさ」

「……はい」

「そういえば、その方法とやらはどうなったんだ? トウリの鑑定スキルで何か分かったのか?」


 ディルクさんの問いに、俺は首を横に振った。


「現状、まだ分かっていない。それに、どうやらもっと大きな問題が浮上してきているんだ」

「大きな問題だと? それはアデルリード国でか?」

「いや、おそらくは大陸規模になるかもしれない」

「……なんだと?」


 俺の言葉にディルクさんは眉間をピクリと動かしてこちらを見た。

 だが、ここで気安く話せる内容ではなく、俺はこの場で説明することは避けた。


「森谷への贈り物を届けたら、さっきの部屋で説明します」

「……分かった。全く、問題が山積みだというのに、まだ何か起こるというのか」


 こればっかりはどうしようもないので、俺は苦笑いを浮かべるにとどめる。

 そうしているうちに、俺たちは森谷がベッドで横になっている地下牢に辿り着いた。



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