第312話:魔王と魔人 3
これにはさすがに陛下たちも言葉を失い固まってしまった。
まあ、魔王だもんな。これこそザ・御伽噺の世界だもんな。仕方がないと思う。
「どうやら魔王の復活が近くなっていて、それが魔獣の活発化に繋がっているみたいですね」
「……ならば、我らは何もできないということか?」
「えっ? その魔王を倒す、もしくは封印してしまえばいいんじゃないんですか? ここにそう書いてありますけど?」
「「事はそう単純じゃない!」」
「……あっ、はい。すみませんでした」
ここで陛下とディートリヒ様から言い返されてしまい、俺は思わず謝ってしまった。
「あっ、いや、すまん。思わず声を荒らげてしまった」
「いえ、構いませんが……魔王って、どんな存在なんですか? 悪魔って呼ばれていた森谷とはどう違うんです?」
もしかするとこれも森谷と同じパターンで、昔の勇者たちがあることないことを吹聴しまくっているという可能性だってあるかもしれない。
そう思って聞いてみたのだが、どうやら魔王に関しては違うようだ。
「いや、モリヤの時のように簡単に説明できるものではない。魔王というのは、過去に存在した確かなものだからな」
「その通りです。魔王という存在は、王族と一部の人間にしか伝えられないものですが、確かに存在していたと聞き及んでおります」
「ディートリヒ様は伺っていたんですね」
「これでもアデルリード国の宰相ですから」
アリーシャの驚きの声にディートリヒ様は答えているが、その表情はあまり芳しくない。むしろ、これからどうしたらいいのかと思案を続けているように見える。
「……私たち、どうなっちゃうんでしょうか?」
そこへ不安そうに呟くレレイナさんの声が聞こえてきた。
「あの、トウリ様。ここには魔王を倒す方法や封印する方法が記されておりませんが、それを鑑定することも可能なんですか?」
「やってみないと分からないけど……それじゃあ、ちょっとやってみようか」
俺はそう口にしながら鑑定スキルを発動させようとした――その時だ。
「ちょっと待って!」
「……ど、どうしたんだ、アリーシャ?」
スキルの発動前に、アリーシャから待ったの声が掛かった。
「トウリさん、それは魔力を大量に消費する可能性があるのではないですか?」
「まあ、そうだな。でも、まだバナナの効果も残っているし、ギリギリいけるんじゃないか?」
「ギリギリではダメなのですよ! しっかりと休んで、魔力を回復させてからバナナを食べて行いましょう!」
「それだと時間が――」
「それでトウリさんが倒れてしまったら、元も子もないんですよ!」
「ご、ごごごご、ごめんなさい! トウリ様、アリーシャ様!!」
ここで謝罪の言葉を口にしたのはレレイナさんだ。
どうやら自分のせいで俺が怒られてしまったと勘違いしているらしい。
「いや、レレイナさんが謝ることじゃないよ」
「その通りです。トウリさんはもっと自分のことを考えて行動していただかないといけませんよ!」
「……気をつけます」
俺もアリーシャの言っていることが正しいと思っているので、素直に謝っておこう。
だが、そうなると困ったことになったぞ。
「そうなると、森谷に羽毛布団を届けるのが遅くなるかもしれないなぁ」
「ん? 羽毛布団だと?」
「はい。一日しっかりと休んでみて、自分が焦っていたことに気づいたんです。それで今の俺にできることをやろうと思ったところで、森谷に羽毛布団を届けるよう言われていたことを思い出して……」
本来であれば王城を出ることを伝えるためにここまで来ていたのだと思い出し、どうしたものかと考えてしまう。
「ならば先にモリヤのところへ向かうといいぞ」
「よろしいのですか?」
「構わんよ。むしろ、彼を蔑ろにする方が危険じゃろう」
「別に森谷は悪魔でもなんでもありませんよ?」
「それは理解しておる。じゃが、約束したのであろう? 約束を違えて、起きた時に怒られる方が怖いであろうに」
……まあ、それもそうか。
見た目は幼児とはいえ、神級職の魔導師【神魔】だもんな。
「分かりました、ありがとうございます」
「戻ってきた時には鑑定をよろしく頼むぞ」
「はい」
レレイナさんはディートリヒ様と調べものがあるからと残ることとなり、俺とアリーシャは先にグランザウォールへと戻ることになった。
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