第311話:魔王と魔人 2

 陛下の私室に通された俺たちは、思いのほか神妙な面持ちをしている彼を見て、予想以上に面倒ごとかもしれないと気持ちを引き締め直した。


「陛下、マヒロ様とアリーシャ様をお連れいたしました」

「うむ」


 ディートリヒ様の言葉に陛下が頷くと、目を落としていた資料から顔を上げて小さく息を吐いた。


「あの、大丈夫ですか、陛下?」

「ん? あぁ、大丈夫だ。すまんな、ちょっと問題が起きたものでな」

「もしかして、その問題の解決のためにトウリさんを?」

「力を借りたいとは思っておる」


 陛下は俺に力を貸してほしいと言っていたものの、ちょっとしたことでは声を掛けてはこなかった。

 そもそも、自分の差配で問題を解決できなければ王様なんてできないだろう。

 そんな陛下が俺の力を借りたいと口にしてきたのだから、なかなか難しい問題なのかもしれない。


「各地で面倒なことが起きておる」

「面倒なことですか?」

「うむ。魔獣の活発化が起きていると、各地から報告があがってきておる」

「魔獣の活性化ですか?」


 俺の問いに陛下が答えると、アリーシャが驚きの声をあげた。


「グランザウォールではそのようなことは起きていませんが……」

「魔の森の魔獣が活性化することなんてあるのか?」

「聞いたことはありませんが、そんなことが起きていたらグランザウォールはすでに滅んでいたでしょう」


 アリーシャの言葉に俺はゴクリと唾を飲み込んだ。

 だが、冗談というわけではないだろう。

 魔の森の魔獣は他の場所の魔獣に比べて強い個体が多く、奥に進むにつれてその強さも増していく。

 そんな魔獣が野に放たれたとなれば、グランザウォールだけではなく周囲の土地も荒廃してしまうことだろう。


「それで、陛下は俺に何を鑑定してほしいんですか?」

「魔獣の活性化の原因を探ってほしい」

「活性化の原因かぁ……なら、念のためにバナナを食べてから鑑定した方が良さそうですね」

「よろしく頼む」


 俺は魔法鞄からバナナを取り出して食べると、陛下の願った鑑定を行うことにした。


「鑑定、各地で起きている魔獣の活性化の原因」


 …………えっ?


「……どうじゃ、マヒロよ?」

「…………はは、なんか、ものすごい内容が出てきたんですけど、これはマジか?」


 俺はそう口にすると、無言のまま鑑定画面を共有した。


「……な、なんじゃと?」

「……魔人が原因?」

「……魔人って、おとぎ話に出てくる、あの魔人ですか?」


 森谷の名前がおとぎ話に出てくるとは聞いていたが、さらに魔人が出てくるってのか?


「しかも、最後の一文を見てみてくれ」


 だが、驚きなのは魔人だけではない。

 俺が最後の文章を読むよう促すと、全員がそちらへ視線を向けた。


「「「「……はい?」」」」


 陛下だけでなく、ディートリヒ様も、レレイナさんも、アリーシャも声をあげる。

 それも当然だろう。そこには魔人以上におかしな表記がされているのだから。


「「「「…………ま、魔王?」」」」


 そう、魔王なのだ。

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