第310話:魔王と魔人 1
翌日、王城の一室で目を覚ました。
自分でも驚くほどに頭の中がスッキリしており、だいぶ疲れが溜まっていたのだと改めて実感してしまう。
そして、俺にもできることが以外にもすんなり出てきてしまった。
「……羽毛布団を森谷に届けるか」
解呪をするという目的が思考を埋め尽くしてしまい、森谷との約束を忘れるところだった。
まずは森谷が快適に眠れる環境を作る。
意識はなく、意味のないことかもしれないが、今の俺が森谷にできる最大の役目でもあるのだ。
「アリーシャと一緒にグランザウォールに戻ろう。念のために転移魔法陣も設置していたのが功を奏したな」
距離はあるが、ディートリヒ様の助けを借りなくてもバナナを食べれば俺の魔力でも転移は可能だ。
あちらもまだ忙しいだろうけど、羽毛布団を届けるだけなら問題ないだろう。
――コンコン。
俺がそんなことを考えているとノックされ、ドアを開けるとアリーシャが立っていた。
「おはようございます、トウリさん」
「おはよう、アリーシャ」
「……うふふ」
「ど、どうしたんだ?」
俺の顔を見るなり笑みを浮かべたアリーシャに、俺は首を傾げてしまう。
「トウリさんの表情がスッキリしているので、嬉しくなりました」
「あー……そっか。ありがとう、アリーシャ」
やっぱりアリーシャは俺のことをよく見てくれている。顔を合わせてすぐに状態を理解してしまうんだもんな。
「それで、何か思いついたのですか?」
「解呪に関してはさっぱり。だけど、森谷に羽毛布団を持っていくって約束を思い出してさ。それを届けに行こうかと思ってる」
「そうだったのですね。……うん、それがいいと思います」
アリーシャの言葉に俺は苦笑を浮かべながら、そのまま一つの提案を口にした。
「もしよければ、アリーシャも一緒に行かないか?」
「私も一緒に、ですか?」
「あぁ。……その、アリーシャと一緒にいたいなと思ってさ」
恥ずかしそうに俺がそう口にすると、アリーシャは一瞬驚いた表情を浮かべたものの、すぐに笑みを浮かべて頷いてくれた。
「……分かりました。一緒に行きましょう」
「ありがとう、アリーシャ。そうと決まれば早速陛下に話をつけないとな」
「謁見を申し出たり、すぐに出て行ったり、怒られないでしょうか?」
「あー……まあ、緊急事態だったし、許してくれるだろう」
本来であれば不敬だ! とか言われてもおかしくはないのだが、陛下に限って言えばそんな風に言わないことは俺が一番分かっている。
付き合いが長いとは言い切れないが、濃い付き合いをしているとは言い切れる。
そんなことを考えながら陛下の私室へ向かっていると、途中でディートリヒ様とレレイナさんと顔を合わせた。
「おや? おはようございます、マヒロ様、アリーシャ様」
「おはようございます、ディートリヒ様、レレイナさん。あの、早速なんですが陛下に謁見は可能でしょうか?」
「えぇ、問題ないですよ。むしろ、陛下の方がマヒロ様をお呼びになっていましたから、ちょうどよかったです」
陛下が俺を? ……もしかして、解呪について何か分かったのだろうか? それとも、別の問題でも起きたのか?
「……そういうことなら、急いだ方が良さそうですね」
「ありがとうございます。では、参りましょう」
呼ばれているならと俺はやや早足で陛下の私室へと向かう。
……あれ? 王の間じゃなくて、私室でいいのか。
もしかすると、個人的な頼みとか、そんなことかもしれないな。
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