第六章:魔王と魔人
第309話:プロローグ
「――ふむ、まさかモリヤ様がのぅ」
腕組みをしながら陛下が唸る。
俺たちはグランザウォールに戻ってすぐに陛下に謁見を求めた。
事が事なだけにすぐに謁見することができたものの、森谷が解呪できなかった呪いを陛下たちでどうにかできるはずもない。
そもそも、【神眼】でも鑑定することができなかったのだから。
「……焦りは禁物ぞ、マヒロよ」
「あっ……はい、そうですね」
どうやら顔に出ていたようだ。
「我らも可能な限り知識を絞りつくす。だからマヒロよ、お主も鑑定スキルでできることをやってみるのだ」
「……はい」
「トウリさん……」
陛下からは焦るなと、やれることをやってみろと言われたものの、俺の中ではできることは全て試したあとなのだ。
アリーシャは俺が何を考えているのか分かっているのだろう、心配そうな表情でこちらを見ている。
……正直、どうしたらいいのかさっぱり分からないというのが現状だ。
今までは気になったことを鑑定してすぐに行動することができたが、今回は違う。
受け身でしか行動することができず、何も起こらなければ俺だって何もできない状況だ。
「戻りました、陛下」
「し、失礼いたします、陛下」
そこへ、別室に資料を調べに行っていたディートリヒ様とレレイナさんが戻ってきた。
「ディートリヒにレレイナよ、そなたらはどうであったか?」
陛下の問いに、二人は申し訳なさそうに首を横に振った。
「むぅ、そうか……」
さて、こうなったらシュリーデン国やロードグル国からの報告を待つだけしかできないか。
……もしくは、俺が禁忌魔法を探って森谷を助ける方法を――
「ダメですよ、トウリさん」
「アリーシャ……何がダメなんだ?」
「ご自身を犠牲にしようとお考えなのでしょう?」
……全く、完全に見透かされているな。
「だ、大丈夫だって、ただ禁忌魔法について探るだけだから」
「ダメです!」
「ダメだ」
「ダメですね」
「だ、ダメですよ!」
四人から同時にダメだと言われてしまった。
うーん、そうなると本当にできることがなくなってしまうんだよなぁ。
「マヒロよ、お主はロードグル国から戻ってきてすぐにこっちに来たのだろう。一度休んでもいいのではないか?」
「ですが、俺が休んでいる間も時間は過ぎていきます。俺は森谷を早く助けたいんです!」
「トウリさん!」
俺が陛下に食って掛かったタイミングで、アリーシャが声を荒らげた。
「……あ、アリーシャ?」
「陛下の仰る通りです。あなたは今、冷静に物事を考えることができなくなっています」
「そ、そんなことない。俺は冷静に森谷のことを――」
「タイキ様のことを心配する気持ちは分かります! ですが、トウリさんのことを心配している私たちの気持ちをお考えください!」
アリーシャの言葉を受けて、俺はハッとさせられてしまう。
……そういえば、睡魔に負けて仮眠を取っただけで、すぐにこっちへ移動したんだっけ。
冷静になれば簡単なことだ。俺が一人で焦ったところで、事態が好転するわけでもない。
「……すまない、アリーシャ」
「分かって、いただけましたか?」
「あぁ。冷静さを欠いて、完全に焦っていたみたいだ。陛下、どこか一室をお借りしてもいいですか? 一度ゆっくり休みたいので」
「もちろんだとも。ディートリヒよ、案内してやってくれ」
「かしこまりました、陛下。レレイナ様にも別の部屋をご用意しておりますので、一度お休みください」
「あ、ありがとうございます」
こうして俺は王の間をあとにした。
アリーシャのおかげで冷静さを取り戻すことはできたものの、これが問題解決につながるかと問われると、そうでもない。
……しかし、今だけはゆっくり休むこととしよう。
そして、休んだ後はまた考えるのだ。森谷を助ける方法を、みんなの解呪をする方法を。
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