第308話:エピローグ

「――本当にもう行くのか?」


 そう口にしたディルクさんは心配そうに俺たちを見つめている。

 死んだわけではないが、森谷がいつ目覚めるかも分からない状態になってしまったのだから当然かもしれない。

 だが、俺たちは悲観だけしているわけじゃなく、生徒会長たちに掛けられた呪いを解呪する方法を見つけるために戻るのだ。


「はい。早いところこいつらの解呪をして、森谷を目覚めさせたいので」

「そうか。……我らが力になれることがあればいつでも言ってくれ。返し切れないくらいの恩をもらっているのだからな」

「ありがとう、ディルクさん。……いや、ディルク王」


 ディルクさんはロードグル国の新たな王に即位した。

 マリアの時とは違い、正当なロードグル国の皇太子だったディルク王はすぐに国民から認められ、反乱軍もすぐに合流することができた。

 マリア軍は敗走することになったものの、すでにシュリーデン国からも締め出された存在なので、散発的な戦闘は起きているようだがいずれ完全に制圧されることだろう。

 残党狩りに参加できないのは申し訳なく思うが、そこはディルク王の手腕に期待するしかなかった。


「強力な呪いについてこちらで分かったことがあれば連絡を入れよう。必ずタイキを目覚めさせるのだぞ」

「もちろんです」


 こうして俺はディルク王と固い握手を交わすと、大急ぎでシュリーデン国へ戻っていった。


 ◇◆◇◆


 俺はサニーに、新と先生はハクに乗り昼夜問わず駆け抜けていった。

 そのおかげもあり、シュリーデン国には半日で、王都には二日で到着することができた。

 ライドさんやオルヴィス王に簡単にだが説明を行うと、彼らも呪いについて調べてくれると約束してくれた。

 マリアの処遇については気になったものの、今は森谷のことを最優先すべきなので、こちらもオルヴィス王たちに任せることにした。


「タイキ様をよろしくお願いいたします」

「私たちもお力になれるよう、精いっぱい調べさせていただきますね」

「ありがとうございます。それじゃあ俺たちはすぐにグランザウォールへ戻ります」


 ここからアデルリード国の王都アングリッサにメールバードを飛ばしたところで、俺たちが到着するよりも遅くなるだろう。

 陛下への謁見が事前申請なしにできるのかは分からないが、事情を説明すればきっと大丈夫なはずだ。

 それに賢者であるディートリヒ様の協力は絶対に取り付けたい。俺が知る限り、一番の知識人はディートリヒ様だからな。


「それじゃあ、戻ります」

「気をつけて下さいね、トウリ殿」

「何か分かればご連絡いたします」

「よろしく頼みます、ライド様」

「皆様もお気をつけて」


 簡単な挨拶を終えるとすぐに転移魔法陣を起動させ、俺たちはグランザウォールの宿場町へ転移したのだった。


 ◇◆◇◆


「トウリさん! 皆さん! おかえりなさい! ……あれ? タイキ様は?」


 最初に出迎えてくれたのはアリーシャだったが、すぐに森谷がいないことに気づいた。

 事情を説明すると彼女は顔を青くし、そしてすぐにアングリッサへ向かう手はずを整え始めた。


「レレイナさんにも声を掛けておきます。もしかすると、呪いに関する書物を読んでいたかもしれませんし」

「助かる」


 俺たちも休む間もなく準備を始めていく。

 途中で円たちからも声を掛けられたが、そちらは先生が事情を説明しておくと言ってくれたので、遠慮なく俺はその場を離れた。


「……森谷、絶対に助けてやるからな。俺の全てを掛けてでも、解呪方法を見つけ出してやる!」


 決意を言葉にした俺は、これが新たな騒動の幕開けなのだとは全く気付いていなかったのだった。

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