第306話:勇者と剣聖と鑑定士 46
「……仕方がないね、僕がどうにかしよう」
「森谷!」
声の方へ振り向きながら、俺は森谷の名前を叫んだ。
「できるのですか、森谷さん?」
「僕ならね」
「お願いします、森谷さん!」
「任されたよ」
そう口にしながら森谷が一歩前に出た――だが。
「ちょっと待てよ、森谷」
その肩を俺が掴んだ。
「……どうしたんだい、桃李君?」
「お前、自分を犠牲にするつもりじゃないのか?」
「「……え?」」
先生と新から驚きの声が漏れ、森谷は軽く肩を竦めた。
「どうしてそう思うんだい?」
「お前のことだ。どうせ禁忌魔法を使ってどうにかしようと考えているんじゃないのか?」
「…………はぁ。全く、君はどうしてそんなに勘が鋭いんだろうねぇ」
「そんな!」
「待ってください、森谷さん! それじゃあダメだ、あなたが犠牲になるなんて!」
「でも、一つだけ勘違いしているよ、桃李君は」
何を勘違いしているのかと軽く睨んでみたが、どうやら森谷には彼なりの考えがあったようだ。
「彼らに使うのは禁忌魔法ではなく、過去に現存していた通常の魔法さ」
「……だが、お前の言動を見るに、何かしら制約なり反動があるんじゃないのか?」
「本当に鋭いねぇ、桃李君は。そうだなぁ……いうなれば、前者だね」
「制約か」
「あぁ。これは解呪魔法ではなく、呪いの進行を止める魔法なんだ。どうやらこの呪いは、僕が使える魔法では解呪させることができそうもないんだ」
「だから止めるってことか?」
「そういうこと。僕はここに繋ぎ止められることになるけど、そうしないとこの子たち、死んじゃうかもしれないからね」
「だからってお前が犠牲になる必要はないだろう! また、繋ぎ止められてしまうんだぞ!」
森谷は一緒に召喚された仲間によって裏切られ、生きるために禁忌魔法を使って魔の森から出られなくなった。
俺たちと出会い、ようやく自由に動けるようになったと思ったら、たった数ヶ月でまた繋ぎ止められるなんて……こんなもの、やっていられないぞ。
「……心配してくれているんだね、桃李君は」
「当たり前だろう!」
「あはは。……でも、大丈夫さ」
「……なんでそんなことを言えるんだよ」
「決まっているだろう? また君が助けてくれると信じているからさ、桃李君」
森谷の言葉に俺はハッとして、彼の顔をまっすぐに見ることができた。
今からまた繋ぎ止められてしまうというのに、森谷は……いや、大樹は柔和な笑みを浮かべてくれている。
「……絶対に助ける。また一緒に、いろいろなところを見て回ろう」
「あぁ。期待して待っているよ」
「ごめんなさい、森谷さん。まさか、そんなことになるだなんて……」
「本当にいいんですか、森谷さん?」
「春香ちゃんも新君も、気にし過ぎだよ。でも、気にしてくれるっていうなら、桃李君が僕を助ける手伝いをしてくれると嬉しいかな」
「「はい!」」
一つ、二つと頷きながら、森谷はもう一度こちらへ視線を向けた。
「この場所、できるだけ過ごしやすいようにしておいてくれよ?」
「もちろんだ。ディルクさんに約束させる」
「まあ、眠るだけだからいいベッドを用意してくれるだけでいいんだけどね」
「温泉街から最高級のベッドを用意するよ」
「あー! 春香ちゃんの料理、食べ損ねちゃったなー!」
「目を覚ましたらすぐに作らせる。俺も手伝うよ」
「……はは、短い時間だったっていうのに、ちょっとだけ……いいや、だいぶ名残惜しくなっちゃったなぁ」
苦笑しながら頭を掻いた森谷は視線を逸らしたが、すぐにまたこちらを向いた。
「……あとのことは、任せたよ」
「……任せろ」
――こうして森谷は生徒会長たちに掛けられた呪いの進行を止めたのだった。……自らの時間経過と共に。
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