第304話:勇者と剣聖と鑑定士 44

 王都奪還を達成したディルクさんはすぐに自らがディルク・ロードグル第一王子であることを民に告げ、マリア・シュリーデンから国を取り戻したことを宣言した。

 また、手助けしてくれたのも現シュリーデン国の国王であり、今後は新しいロードグルとシュリーデン国で手を取り合い、助け合っていくのだということも伝えられる。

 自分たちを襲い、奪い、虐げたシュリーデン国と手を取り合うということに反発する者も少なからず現れるだろうが、ディルクさんはそれを手懐けるのが優れた王なのだと自信ありげに口にした。

 むしろディルクさんからすると、反発する者よりも抑えるのが面倒な相手が身近に存在していた。


「マリア・シュリーデンを引き渡すというのは本当なのですか!」

「首謀者は皆の前で打ち首にすべきです、陛下!」


 マリアをシュリーデン国に引き渡すことが協力の約束になっていたのでそれを実行しようとしたのだが、それを多くの騎士たちが反対したのだ。

 それも当然で、彼らは多くの仲間をマリア軍に殺されている。

 この目で彼女の首が刎ねられるのを見るまでは、積もり積もった恨みを晴らすことができないのだろう。


「ならん! 協力してくれた者たちに報いず、何が王か! 彼らの協力がなければ早期の奪還はならず、今頃は我もどこかの荒野で殺されていたかもしれんのだぞ!」


 しかし、ディルクさんは一切折れることなく反対意見に対立し、最終的にはマリアの引き渡しに、渋々ではあるが納得させることに成功した。

 騎士たちからは俺たちが睨まれることになってしまったが、それもディルクさんが一喝してくれ、ようやく収まった感じだ。


「すまないな、カナタ、ライド」

「いや、俺たちは構わないよ」

「私も問題ありません。マリアは私が責任を持って、陛下のもとへ連れていきましょう」


 すでにオルヴィス王にはメールバードを飛ばしており、国境付近に引き渡しのための軍を派遣するよう伝えてある。

 あとはこちらから無事に引き渡し場所まで向かうことができれば、移送完了だ。

 しかし、今回の戦いで誰もが知っている通り、ライドさんは全く戦闘ができないので、護衛が必要となる。

 最終的にオズディスに戻るギースさんは別としても、他の面々は一緒に動かなければならないので別行動は難しい。

 かといってロードグル軍を護衛にすると、最悪の場合で道中の裏切りからマリアを討ち取られる可能性が考えられる。……というか、その確率が鑑定結果で非常に高い。

 というわけで、ここは俺謹製の魔導具をライドさんとギースさんへ託すことにした。


「これはなんでしょうか?」

「もしかして、攻撃用魔導具か!」

「んなわけあるか! 戦争はもう終わったんだからさ!」

「……ちっ!」

「舌打ち聞こえてるからなー」


 マジで戦闘狂だな、ギースさんは。


「これは魔物除けの魔導具だよ。それとこっちは姿を隠すことのできる魔導具」

「……いやはや、恐ろしい魔導具ですね」

「……姿を隠すって、攻撃用魔導具より危険じゃねぇか?」

「使い方を間違えなければ便利だよ。言っておくけど、二人を信用して渡すんだからな? 扱いには気をつけてくれよ?」


 効果範囲内にいれば中にいる全員が対象となるし、マリアを連れていても移動に問題は起きないはずだ。

 ただ、本音を言えばもう一人くらい戦闘ができる人材が欲しい。それも、信頼できる人材が。


「……いいだろう。フィリア、彼らと一緒に言ってくれるか?」

「私がですか?」


 俺の気持ちを汲んでくれたのか、ディルクさんが最高の人材を選んでくれた。


「あちら側への挨拶として、俺の名代が必要となるだろう。フィリアなら任せられる。頼めるか?」

「……私が、ディルク様の名代? ……か、かしこまりました! このフィリア、何があろうともその役目を果たさせていただきます!」

「いや、そこまで意気込まなくてもいいんだぞ?」

「いえ! しっかりと務めさせていただきます!」


 ディルクさんへの忠誠心が強すぎるあまりの行動なので、大目に見よう。……うーん、大丈夫だよな?

 とはいえ、これで誰がどう動くのかを決めることはできたか。

 そして俺たちは俺たちでやるべきことがある。それは――生徒会長たちの処遇を決めることだ。

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