第303話:勇者と剣聖と鑑定士 43
その後、俺たちは王城の地下に作られた牢屋へ殴り込みをかけると、見張りの兵士をあっという間に倒してから隊長格の騎士を助け出した。
全員がディルクさんの登場に驚きを示していたが、彼がマリアを捕らえたことや俺たち協力者がいることを伝えると、ろくに食事も取れていない状態だったにもかかわらず力を貸してくれると言ってくれた。
「無理はするなよ。お前たちにはこれからも我を支えてもらうつもりなのだからな」
ディルクさんの言葉に今度は全員が感動し、その場で涙を流す者まで現れた。
それだけディルクさんが……いや、それもあるだろうけどロードグル王家が民の信頼を得ていたのだろう。
そして、そんな王族を根絶やしにしようとし、さらには国を奪い取ったマリアの所業は許されるものではない。
俺たちとの約束を守るためにと生かしているが、本来であればその場で首を刎ねていてもおかしくはなかっただろう。
「フィリアが城下町に潜む味方に声を掛けてくれている。故に、我らはまず王城を掌握する! いいか、誰も死ぬなよ!」
「「「「はっ!」」」」
重く響く声で騎士たちが声をあげると、牢屋に繋がっている階段を一気に飛び出していく。
どこへ向かうのかはすでにディルクさんに俺が指示し、そして彼から騎士たちに伝わっている。
サニーの存在には最初こそ驚いていたものの、ディルクさんが俺を信頼していることと、彼がこの場にいるということが騎士たちの俺に対する信頼にも繋がったようだ。
「敵を一掃するぞ! トウリ、手を貸せ!」
「わかってるよ! トールハンマー!」
「ビーギャー!」
ディルクさんは自らの剣を手に敵兵へと突っ込んでいき、俺はその周りで遠距離攻撃をしようとしている奴らに攻撃用魔導具で攻撃を仕掛ける。
サニーは遊撃……というか自由に飛び回り空中から火の玉を吐き出していた。
「な、なんだこいつらは!」
「どうして魔獣がいる!」
「えっ!? こ、皇太子殿下!!」
「我と共に行きたい者は我に従え! ロードグル国を取り戻すぞ!」
驚きの声をあげる敵兵たちだが、その中にはディルクさんを知っている者もいた。
それを見たディルクさんは彼らを味方に引き込もうと声を張り上げる。
中には相手が皇太子だと知って前に出ようとする者もいたが、それらはマリアが連れてきた元シュリーデン国の兵士だろう。
武器を振り上げてディルクさんに飛び掛かろうとした――だが。
「皇太子殿下をやらせはしない!」
「俺たちを無理やり従わせやがって!」
「ロードグル国を取り戻すんだ!」
「くっ! 貴様ら、そこをどけえっ!」
無理やり従わせられていたロードグル国の兵士たちが奮起し、シュリーデン国の兵士たちと剣を合わせる。
俺たちは即座に味方を見極め、敵にだけ攻撃を集中させていく。
敵からすると味方が一気に減った状況で混乱している中、さらに強力な攻撃が殺到している状況だ。
士気を保てるはずもなく、あっという間にその数を減らしていく。
「殿下! この場は私たちにお任せを!」
「皆様は別の場所へ! 私たちのように無理やり従わせられている兵士も数多くいますので、どうかご慈悲を!」
「当然だ! 我らロードグル国の民をむざむざ死なせはしないさ! お前たちも、死ぬなよ!」
「「「「はっ!」」」」
民を大事にする王族か。
上に立つ立場の人間は、そうでなきゃならないよな。
ディルクさんが、ウィンスター王がそうであるように。
現シュリーデン国のオルヴィス王もそうなってくれるよう祈るだけだな。
「いくぞ! トウリ、サニー!」
「はい」
「ビギャ!」
ここで考えていても仕方がない。
俺たちはさらに前進して一つずつ、兵士たちが立てこもっている場所に突撃して片付けていく。
進むごとにディルクさんに付き従ってくれる者が増えていき、制圧が容易になっていく。
鑑定でフィリアさんたちの状況も確認したが、あちらも順調に城下町を制圧し始めている。
そして俺たちはそこまで時間を掛けることなく――王都を完全に制圧したのだった。
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