第302話:勇者と剣聖と鑑定士 42

 俺たちは生徒会長とマリアを連れて離宮の外に出ると、ちょうど先生たちが戻ってきたところだった。

 最後尾にはハクがいて、その背には三人のクラスメイトが乗せられている。

 時折バタバタと暴れているように見えたが、ハクが威嚇で唸り声をあげると三人の動きはピタリと止まっていた。


「先生、みんな、お疲れ様」

「お疲れ様、真広君」

「お疲れ~」


 先生と森谷が返事をしてくれたが、俺の名前が出たからかハクの背に乗る三人が勢いよくこちらに顔を向けた。

 しかし、勢い余って地面に落ちてしまった。……しかも、顔から。


「うげっ!?」

「きゃあ!?」

「ぶはっ!?」

「……おぉ、きれいに三人とも違う声で唸ったなぁ」


 俺がそんなことを言っていると、三人は再び顔を上げてこちらを見た。


「ど、どうしてお前がここにいるんだ!」

「そもそもどうして生きているのよ!」

「お前! マリア様と光也に何をした!」

「お前たちに答えてやる義理はないね」


 説明も面倒だし、とりあえず俺はこいつらを鑑定することにした。

 森谷が意識を奪ってくれていたなら鑑定する必要はなかったんだけど、こうして文句を言ってくるってことは、そうはしなかったんだろう。

 上級職ってだけあって、無駄に頑丈なんだろうな、こいつら。


「……あーらら。どうやら魔眼にやられているわけじゃないみたいだ」

「ということは、光也と同じで三人も自主的にマリアと行動を共にしていたわけだな」

「あ、新まで!?」

「ちょっと、御剣君!」

「お前、光也を裏切るのか!」


 今度は俺ではなく新に絡んでいきやがった。

 面倒だし気絶させようかとも思ったが、新は一歩前に出ると三人を見下ろしながらはっきりと口にした。


「先に裏切ったのはお前たちだろう。人を殺し、先生を攻撃したんだ。それに俺は俺の正義を貫いた、ただそれだけだ」


 特級職の迫力なのか、三人は新が言い終わると同時に顔を青くさせてしまい、そのまま何も言えなくなってしまった。

 ただ、こちらは現状この場に集まっている八人と二匹しかおらず、王都ロザーナを完全掌握するには至っていない。

 反乱軍が到着するのを待つことも可能だが、それでは時間が掛かり過ぎてしまう。

 というわけで、ここは一つ彼に頑張ってもらおうではないか。


「ディルクさん。王都にはまだあなたを慕う兵や騎士はいますかね?」

「当然だ。俺を誰だと思っている?」

「なら、その人たちを集結させて一気に王都を掌握しよう」

「それができれば苦労はせん。どこかに潜んでいるだろうが、その居場所が……いや、トウリなら可能なんだったな」

「そういうことです」


 ディルクさんもすぐに気づいてくれたので、俺はそのまま鑑定を行う。

 地面に転がっている三人は何をしているのかという表情でこちらを見ているが気にしない。

 鑑定結果が出ると、俺はディルクさんに内容を共有した。


「敷地内だと牢屋に騎士団の隊長格だった人が数人、あとは城下町に潜んでいるみたいですね。こことここです」

「牢屋の場所は我が知っている。城下町の方はフィリアに任せる」

「心得ました」

「フィリアさんにはギースさんもついていってくれ」

「んだよ! またザコの相手かよ!」

「こっちにはもう敵はいないんだよ。城下町の方がマリア軍の隊長格が出張っているみたいだし、手応えあるかもよ?」

「うっし! さっさと行くぞ、フィリア!」


 ギースさんって単純だよなぁ。強い相手がいるって言っとけば従ってくれるんだもんなぁ。

 いや、実際にいるんだけど、なんでこうも戦いたがるのか、俺には理解できないわ。


「念のために森谷も行ってくれ」

「いいけど、そっちは大丈夫なのかい?」

「見張りに新と先生とハク、ついでにライドさんを置いておく。ディルクさんには俺とサニーがついていくよ」

「トウリがいるなら鑑定でどうにかなるだろう。万が一は我が守ってやろう」

「ピーギャー!」

「いやいや、皇太子殿下に守られるとか、逆でしょうよ普通は」


 いやまあ、ディルクさんの方が俺よりも断然強いのはわかっているんだけどね。


「それじゃあ行動を開始しよう。みんな、気をつけてね」


 俺がそう口にすると、全員がそれぞれの役目を果たすために動き出したのだった。

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