第300話:勇者と剣聖と鑑定士 41

「――……ここも心配は必要なかったな」


 宿舎に飛ばしたドローンで見たのは、影も形もなくなった更地同然の光景だった。

 本当にここに宿舎があったのかも疑問であり、あったのだとしたらどこに行ったのかと聞きたくなってしまう状況。

 周囲に砕かれた宿舎だったであろう瓦礫があるので、本当に跡形もなく破壊されたのだと思いたい。


「なあ、真広。お前、いったいどんな魔導具をディルク様に渡したんだ?」

「いや、普通の魔導具だったんだが」

「おい、真広! 無視するな! 新もだぞ!」

「普通って、レーヴァテインみたいなか?」

「あれは俺専用! マジで火球を飛ばしたりするだけの魔導具だよ」

「ちょっと! こっちを向きなさいよ! 不敬罪で殺してやるわ!」


 ……後ろの二人、マジでうるさいなあ!


「気絶させてもいいか?」

「だな。やり過ぎるなよ?」

「「そ、そんな!?」」

「トールハンマ―、最低出力」

「「ぎゃばばばばっ!?」」


 ……うっし、気絶したな。白目をむいているお姫様とかどうかと思うが、自業自得なので仕方がない。

 それよりもディルクさんたちだ。

 パッと見た感じだと倒れているのは敵兵だけだが……おかしいな、どこに行ったんだ?


「建物の倒壊から逃れようとどこかに隠れたんじゃないか?」

「それならこの状況だろ? もう出てきてもいいんじゃないか?」

「……確かに、その通りだな」


 二人して唸っていると、後方からガタンという音が聞こえてきた。

 弾かれたように振り返った俺たちが見たものはと言えば――


「……なんだ、片付いたのか」

「……ディルクさん、それに二人も」

「こっちに来ていたんですか」

「あいつら、ザコだったからなー」

「というか、ディルク様が魔導具で宿舎を破壊したあとからは烏合の衆になってしまいましたので」


 あれ? マジで魔導具で宿舎を破壊したのか? そこまで威力は出ないはずなんだが?

 ……ジト目を向けるな、新よ。俺にも予想外のことはあるということだ。


「な、なんでそんな威力が出たんだ? そこまで威力の出る魔導具じゃなかったはずだけど?」

「一発放ってそこまで強くなかったからな、我の魔法と融合させて威力を高めた」

「……ま、魔法の、融合?」

「知らんのか? どうやら我の武勇を知っているのはライドとやらだけのようだな」


 そういえば、ディルクさんと初めて出会った時にライドさんがそんなことを言っていたような……あれ? ってことは、魔導具を渡した意味、なかったか?


「……返してください、魔導具!」

「これはこれで使えるからな。言い値で買い取ろう」

「売りませんから!」

「で、ですが、防御用魔導具をとても役に立ちました!」

「あー、確かに。一人だけまあまあやる奴がいたからな」


 ギースやフィリアさんが苦戦する相手かぁ。……ただ、まあまあって言い方が気になるな。


「それ、本当に役に立ったのか?」

「ディルク様が自ら相手をすると言い出しまして……」

「俺には関係ないが、一国の皇太子様だろう? そっちが面倒だったんだよ」

「そっちって……フィリアさんが?」

「説得で揉めたのだ。フィリアが自ら防御用魔導具の効果を確かめ、それでようやく許可が下りた」


 ……その間の相手はいったい何をしていたのだろうか。まさか、自ら攻撃を受けにいったとか?

 もしもそうなら相手にとっては猟奇的な行動に映っただろうなぁ。……怖い!


「それで、残りも面々はどうしたのだ?」

「他の上級職のクラスメイトたちのところへ。でもまあ、そろそろ戻ってくると思うけどな」

「ということは、これで終わりということで間違いないな?」

「だと思う。そっちに転がっている女性がマリアだしな」

「……そうか、こいつが」


 俺の言葉にディルクさんがじろりと鋭い視線を気絶しているマリアへ向ける。

 こちらとしては生きたまま捕らえたので連れていきたいが、正直なところディルクさんが殺そうとするなら止めるつもりはない。

 何せ彼は国を滅ぼされ、家族をも殺されているかもしれないのだから。


「……思いっきり白目をむいているなぁ」

「え? あぁ、まあ、そうだな」

「……このような奴に我らはやられたのかと思うと、父上や母上に申し訳が立たんな」

「……殺さないのか?」


 意を決して問い掛けてみたが、ディルクさんは肩を竦めながら首を横へ振った。


「協力してもらったのに、その約束を無下にするつもりはないさ」

「……ありがとう、ディルクさん」

「それはこちらのセリフだ。まさかこうも早く、王都を奪還できるとは思わなんだ」


 フッと笑みを浮かべたディルクさんが手を差し出してきたので、俺はその手を固く握り返した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る