第298話:勇者と剣聖と鑑定士 39

「うおおおおおおおおぉぉおおぉぉっ!!」


 ……とまあ、気合いを入れたものの、俺にできることと言えば耐えることだけなんだよなぁ。

 生徒会長が新を狙うなら挑発の一つでもしてやろうと思っていたのだが、それもない。

 うーん……暇だ。


「あれ? そういえばサニーはどこに行った――」

「ビギャアアアアッ!」

「ちっ! 邪魔だ、魔獣が!」


 おいおい、てめえっ! サニーを狙うとは、いい気になってんじゃねえぞ!


「サニー、上昇!」

「ギャギャ!」

「逃げるのか! セイントソードは一本ではないんだぞ!」

「トールハンマー!」


 俺はもう一つの攻撃用魔導具、トールハンマ―を取り出して振り抜くと、床を砕きながら雷が生徒会長へ襲い掛かる。


「くそっ! 一対二とは、卑怯だぞ!」


 いやいや、策を巡らせて転移から奇襲をした奴に言われたくはないんだが。

 しかし、文句を言いながらも大きく飛び退いて回避するか。戦闘訓練だけはしっかりと受けてきたってことか?


「だが、地に足がついていなければ何もできないだろう! サニー!」

「ビギャアアアアッ!」

「セイントソード!」


 生徒会長は床にセイントソードを放つと、その威力に押されて自らを後方へ飛ばして火球を回避した。

 だが、二つ目のセイントソードを放ったからかこちらの威力が弱くなった。


「いまだ!」


 俺はセイントソードの射程から逃れて前に出ると、三つ目の魔道具を取り出した。

 だが、これは攻撃用ではない。


「くらえ!」


 俺は取り出した魔導具をそのまま生徒会長めがけて投げつけた。


「こんなもの、当たるわけがないだろう!」

「それはどうかな?」

「んなっ! な、なんでこっちに飛んでくるんだよ!」


 そいつは捕獲用魔導具、プリズンロープ。

 投げつけると目標へと自動的に飛んでいき、縛り上げるまで止まることはない。

 まあ、俺の魔力が尽きれば止まってしまうが、セイントソードから逃れた今なら、そんなことは絶対にあり得ない。なぜなら――


「ぼべばいばぼヴァナナをだべだがらな(俺は今もバナナを食べたからな)!」

「こいつ、舐めた真似を!」


 そういう反応も、久しぶりだなぁ。

 目の前で敵がバナナを頬張っているんだもんなぁ。そう思うよなぁ。


「ちっ! 逃げられないなら、この変な縄を叩き切ってやる」

「あー、それも無理だ」


 生徒会長の剣がプリズンロープめがけて振り下ろされる。

 しかし、プリズンロープは渦を描くように動きを変化させると、剣身をすり抜けて生徒会長の懐に入ると、一瞬のうちに縛り上げてしまった。


「ぐはっ!?」

「うっし、捕獲完了」

「貴様、放せ!」

「いやいや、放したら絶対に攻撃してくるでしょうよ」

「当たり前だろう! ……待て、どうしてお前は生きている?」


 ……え、えぇぇ~? そこに今さら気づくのかよ。

 俺が脱力しながらそんなことを考えていると、別の方から声が上がった。


「きゃあっ!」

「マリア様!」

「お疲れ様、新」

「あぁ。この魔導具、すごいな」

「くっ! は、早く放しなさい!」


 この二人、似た者同士か? ほとんど同じことを言いやがった。

 だが、この魔導具は正直なところ、マリア専用で作ったものだ。だからこそ、縛るだけではなく別の効果も付与している。


「なら、転移を……あ、あれ?」

「どうしたんですか、マリア様! 早く転移で、あなただけでも!」

「……ま、魔法が、使えない?」

「んなっ! セ、セイントソード! ……くそっ、セイントソード!」


 いや、だから出ないんだって。

 プリズンロープは捕縛用であり、魔力阻害魔導具でもある。

 捕らえたところを転移で逃げられたら意味がないからな。


「さて、こっちは片付いたとして、あっちはどうなって――」

「おい、真広! 答えろ、どうしてお前が生きている!」

「……コ、コウヤ様、この人はいったい?」


 おいおい、こいつ。

 召喚されたあの場にいなかったとはいえ、自ら追放した相手を知らないか。

 ……ムカつくが、今はそんなことを気にしている場合ではない。

 そんなことを考えていると――


 ――ドゴオオオオオオオオォォォォン!


 遠くの方から……いや、あちらは先生たちが向かったところか。

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