第296話:勇者と剣聖と鑑定士 37

 ――ガキンッ!


「ちいっ! お前もか、真広!」

「てめぇ、生徒会長! 新はどうした!!」


 ここに生徒会長がいるということは、新はやられたのか? それとも、このタイミングで転移させるとマリアと事前に相談していたのか?

 鑑定で新の無事を確認したいが、予想以上に生徒会長の攻撃が苛烈だ。魔力が一気に減っていってしまう。


「反撃の隙は与えない! 一気に削り切ってやる!」

「うおっ! くっ、この野郎!」

「ははっ! やっぱりお前は初級職の鑑定士だよ! 全くなってないじゃないか!」


 こいつ、ふざけたことを言いやがって!

 いいぜ、それはら出し惜しみはなしだ。マリアもまとめて――ぶっ飛ばしてやるよ!


「レーヴァテイン、最大出力!」

「反撃の隙は与えないと言っただろう!」

「残念だな! こいつは隙があってもなくても、問題ないんだよ!」


 俺はレーヴァテインが壊れる限界を超えた魔力を注ぎ込むと、振り抜くではなく床に突き刺した。


「何をするつもりだ!」

「こうするんだよ!」


 深紅だったレーヴァテインの剣身が真っ赤に変化すると、剣自体が燃え上がった。


「あっつ!」

「貴様、自爆技か!」

「そんなところだよ! だけどまあ、俺は死なないけどな!」


 俺は生徒会長が怯んだのを見て取ると、魔法鞄からぶどうを取り出して一気に口へ放り込む。

 そして何倍にも上昇した速さを活かして駆け出すと、生徒会長の横をすり抜けてサニーのもとへ。


「速い!?」

「一緒に押し潰してやるわ!」

「その前に、駆け抜けてやるさ!」

「ビ、ビギャアアァァ」


 グラビティホールの範囲内に足を踏み入れた途端、恐ろしいほどの重みが全体重に圧し掛かってくる。

 一瞬でも力を抜けば、足を止めれば、気を抜けば、俺の体は床に叩きつけられるだろう。


「っざけんなよおおおおおおおおっ!!」


 だからこそ力を抜かず、足を止めず、気を張り詰めて、一気に駆け抜ける。

 膝を折れば再び伸ばすことはできないと判断した俺は、サニーの首根っこをグッと掴み、そのまま放り投げた。


「ビギャアアアアッ!」

「くっ! あなただけでも殺してやる!」

「ぐおおぉぉっ!?」


 まだ、重くなるのかよ!?

 マズイ、このままだと、叩きつけられる!!


「――飛影斬!」


 俺がそう思った直後、頼りになる男の声が響き渡った。


「新!」

「よ、避けられない!?」

「もう戻ってきたのか! マリア様!」


 全速力で戻ってきてくれた新が、切り札である魔法剣のカードを切ってマリアを攻撃したのだ。

 飛ぶ斬撃、飛影斬が放たれると、生徒会長はマリアを守るため彼女の盾となる。

 一方でマリアは僅かな時間だが衝撃に備えようと魔法への集中力を欠いてしまった。

 グラビティホールの重みが緩くなり、この隙を見逃すことなく俺は一気に効果範囲から逃れた。


「ぷっはああああっ! あ、危なかった!」

「ピキャ~!」

「すまん、真広。光也の逃した」

「いや、転移を使われたらどうしようもない。それに――こっちの仕込みはもう終わったから、勝利は確実だ!」


 俺がそう口にした直後、床に突き刺したままだったレーヴァテインから膨大な熱が放出された。


「きゃあっ!?」

「真広、いったい何をしたあっ!」

「早く逃げないと巻き込まれるぞ? そいつは――核爆弾だ」

「んなあっ!? 貴様、本気で言っているのか――」


 ――ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!


 生徒会長の言葉を遮るようにして、レーヴァテインが大爆発を起こした。

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