第295話:勇者と剣聖と鑑定士 36

「ビイイギャアアアアッ!」

「ま、魔獣ですって!?」


 サニーが火球を吐き出すと、声の主は驚きを露にしながら回避する。

 直後、俺への攻撃が止んだのを見て大きく距離取った。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……助かった、サニー」

「ビギャギャ!」

「……どうして魔獣を付き従えているのかしら? あなた、面白いですね」


 ……女性? それに、さっき生徒会長が飛び出してきたってことは、こいつがそうか。


「あんた、マリア・シュリーデンだな?」

「シュリーデンですって? あのような没落した国の名は捨てました。私の今の名は――マリア・マリーロードですわ」

「……マリー、ロード?」


 この国の名はロードグル国だ。マリーロードって、いったい何なんだ?


「えぇ、そうです。ロードグル国全体を完全に掌握できた時は、この名を新たな国として大陸全土に知らしめるのです」


 なるほど、そういうことか。

 だが、こいつははっきりと口にしたな。


「ってことは、あんたはまだロードグル国を完全掌握できていない。それもなかなか進んでいないってことだな?」

「マリーロード国ですわ」

「はいはい、そうですか。それで、どうなんだ?」

「うふふ。それをあなたに教える必要なありませんわね!」


 語気が強くなったと思った直後、再びあの押し潰すような攻撃が放たれた。


「レーヴァテイン!」

「ビイイギャアアアアッ!」


 俺は攻撃を食らう前にレーヴァテインを振り抜き、サニーは火球を吐き出す。

 攻撃を防御に変更したのか、俺たちが放った攻撃は軌道を変えて地面に命中してしまう。


「一度距離を取るぞ、サニー!」

「ビギャ!」

「あら、どこに行くのかしら?」

「んなっ!? な、なんで後ろに――うおおおおっ!?」


 大きく後方へ飛び退いたのだが、いつの間にかマリアがそこに立っていた。

 足が地面から離れていたのもあってか、今度は押し潰すのではなく、押し返されるような形で吹き飛ばされてしまった。


「がはっ!?」

「ビギャアアアアッ!」

「この魔獣、邪魔ですわ!」


 顔面から壁に激突してしまい、口の中には鉄の味が広がっていく。

 追撃がなかったのはサニーのおかげだろう。

 顔を押さえながら立ち上がり振り返ると、サニーが空中からの急降下、急上昇を利用してマリアへ攻撃を仕掛けているところだった。


「そういえば、あいつは転移魔法を扱える魔導士だったな。魔法陣がなくても転移ができるってことか?」


 そう考えれば、いきなり背後に現れたことにも納得がいく。

 鑑定スキルで事前に攻略法を確認してはいるが、それにも多くの分岐があって何がどう転ぶのかはわからなかった。

 ここでもう一度鑑定を行うこともできるが、それをすると俺が神の名を関するスキルを持っているとマリアに気づかれる可能性が出てきてしまう。

 何せ、鑑定スキルで鑑定できる内容を大きく逸脱した鑑定になるのだから。


「ビギャアアアアッ!」

「グラビティホール! 転移!」

「ビギャ!? ギャギャン!!」

「サニー!」


 サニーが突進を仕掛けたタイミングで自爆まがいのグラビティホールを放ったかと思えば、即座に自分は効果範囲から転移を使って移動、サニーだけが押し潰されてしまった。


「まずは汚らわしい魔獣から仕留めてあげるわ!」

「させるか! レーヴァテイン!」

「そう来ると、思っていましたわ!」


 俺がレーヴァテインを振り抜こうとした直後、マリアはこちらに視線を向けてニヤリと笑った。

 その表情に背筋が凍りそうになったものの、ここで手を止めてはサニーが危ないと判断して一気に振り抜く。

 だが――マリアの目の前に突如として謎の影が現れた。


「真広おおおおぉぉっ!」

「な、なんで――生徒会長が!?」


 俺がそう口にしたのとほぼ同時にレーヴァテインの炎が斬り裂かれ、気づけば俺は――斬りつけられていた。

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