第294話:勇者と剣聖と鑑定士 35

 ――魔導具、レーヴァテイン。

 ファンタジー世界において『炎』を示すことが多い魔剣をもじった魔導具。

 当然ながら、炎を飛ばして攻撃する。

 注ぎ込む魔力量にて炎の威力は増減し、さらに数を打ち出すことも可能だ。

 今回、俺が選択した攻撃方法は――


「一撃必殺!」

「な、なんだ! この炎の威力は――!?」


 5メートル級の特大の炎は一直線に敵兵へと飛んでいく。

 何やら声を上げていたように聞こえたが、実際になんと言っているのかまでは聞き取れなかった。

 だが、今の俺にとってそんなことはどうでもいい。

 一瞬でも油断をすればあっという間に殺されてしまうかもしれない。

 ……まあ、赤城の攻撃をはじき返した防御用魔導具があるので、そう簡単には殺されないけどな。


「とはいえ、やっぱり油断はできない……って、あれ?」


 これくらいでは倒れないと思っていたんだけど……反撃が、こない?


「もしかして、倒しちゃった?」


 黒煙のせいで相手が見えなくなってしまった。

 これは、使う魔導具を間違えてしまったかな。


「おっ! 黒煙が晴れてきたな……って、やっぱり倒れているか。……ね、念のために、鑑定しておくか」


 近づいたタイミングで不意打ちをされたら堪ったものではない。

 ……おや? やっぱり気絶しているか。


「おっかしいなぁ。そこまで魔力を込めたわけでもないんだけどなぁ」


 これでも魔導具を作る時にいろいろと自分でも勉強をした。

 特に魔法については攻撃手段になるので、レレイナさんに聞きながら作ったものだ。

 今回消費した魔力は50程度。

 確かに炎自体は予定よりも大きかったけど、大きくなるということは威力が分散されている、ということでもある。

 だからこそ警戒していたのだが……どういうことだ?


「……はっ! そういえば、新! サニー!」

「なんだ?」

「ピキャー?」

「うおおおおぉぉっ!? ち、近いな、二人とも!!」


 振り返ったら目の前にいるとか、どんだけ隠密行動しているんだよ!


「いや、終わったと思って振り返ったら、そっちも終わっていたからな。ただ、何かを考えこんでいるようだったし、サニーと待っていたんだ」

「ピーキャー!」

「……そ、そうだったのか、すまん」


 二人に謝りながら後方を見ると、それぞれが相手にしていただろう敵兵が倒れていた。


「すぐに上に向かおう。今の戦闘で、侵入者がいることはバレただろうからな」

「……そうだな。鑑定、マリア・シュリーデンの――」


 ――ドゴオオオオオオオオォォォォン!


「「「――!?」」」


 おいおい、なんでいきなり天井が崩れるんだよ!


「新ああああああああっ!!」

「お前、こう――ちいっ!!」


 ――ガキイイイイィィンッ!


 激しい剣戟を響かせながら、新が大きく吹き飛ばされてしまった。

 すぐに何者かが追い掛けていったが、おそらくあれは生徒会長だろう。

 戦闘音を聞いて侵入に気づき、床を破壊するという荒業を使って最短距離を突き進んできた。

 その中で生徒会長の中では新が俺たちの中での最高戦力だったのだろう。

 だからこそ、奇襲のような一撃を見舞ってきた。

 完全に新と切り離されてしまったが、ここは追い掛けるべきだろうか。

 勝利確率はどちらも変わらない。……50パーセント、半々だ。


「――あなた方が侵入者ですか?」

「んなっ!?」


 ……は、背後から、いきなり現れた、だと?


「いったいどこから――」

「グラビティホール」


 ――ドンッ!


「ぐおっ!?」


 な、なんで……防御用魔導具が……発動、しないんだ!?

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