第293話:勇者と剣聖と鑑定士 34

「――……本当によかったのか?」


 俺たちがマリアの方へ向かっていると、新がそう問い掛けてきた。


「よかったのかって、何がだ?」

「先生だ。あの人、三人を助けられないとわかったら、たぶん負けるぞ」

「まあな。だからこその森谷でもあるんだけどな」

「それはわかるが……」


 どうやら新も心配しているようだな。

 とはいえ、こうなった以上は信じることしかできないんだよな。


「大丈夫だろう。俺の鑑定スキルが、そう言っているからな!」

「……なんだ、その中二病的な発言は」

「うっ!? ……ま、まあ、事実だからな」


 あぁー、なんだ。指摘されるとなんていうか、恥ずかしいなぁ。

 確かに中二病的な発言だし、たぶん新じゃなかったら誰も指摘しなかっただろうやつだ。

 ……な、なんで新の前で言っちゃったんだろうなああああぁぁっ!?


「……後悔するな」

「それもあえて言うなっての!」

「ピギャー!」


 うぅぅ、サニーに励まされている気がするよ。


「それよりもだ、真広。道はこっちであっているんだろうな?」

「……あってるよ」

「元気出せよ。というか、この状況で落ち込むな」

「……わかってるよ!」


 気合いを入れなおすぞ、こんちくしょうが!


「鑑定スキルではここから上に二つ行けばいいんだけど……」

「どうした、真広?」

「ここからは、敵が待っている」

「誰もいないんじゃなかったのか?」

「違う。ただ減っただけで、誰もいないわけじゃない。それに、宿舎の方へ行ったのは一般兵というか、そこまで強くない兵士だと思う」

「宿舎の方へ行ったのは……か。ということは、残っている奴らは……」

「あぁ。こいつらは――マリア軍の主力だ」


 こちらの主戦力は新とサニー。俺は……まあ、サポート役だろう。


「何人いるんだ?」

「一つ上には三人だな」

「なら、一人ずつ相手にするのが得策か」

「え? いや、俺はサポートに徹して――」

「ビギャ! ビギャギャー!」

「サニーもやる気のようだな」

「いや、だから俺はサポートで――」

「行こう、真広、サニー」

「ビギャン!」


 ……俺、サポート。誰も俺の言葉、聞いてくれない。


「……はぁ。わかった、行こうか」


 こうなると、魔導具の出し惜しみは控えよう。

 というか、そんなことをしていたら俺が殺されてしまう。

 そうなる確率が……うん、100パーセントだな!


「準備はいいか、真広」

「ビギャー?」

「オッケーだ。それじゃあ、新は階段を上がって正面へ、サニーは右。俺が左に行く」

「わかった。それじゃあ――行くぞ!」


 指示は出した。あとはそれぞれが目の前の相手を倒すだけ。

 新は問題ない。サニーも十分なレベルに上がっているし相手を圧倒できるだろう。

 だが、俺はどうだ? 神級職という規格外の職業だが、鑑定士は支援職だ。

 レベルもある程度上がったが、それでもステータスは戦闘職と比べてギリギリ同等、もしかすると俺の方が低いかもしれない。

 ……鑑定スキルがあるからと言って、油断は絶対にできない。

 気を引き締めろ。自分が作った魔導具に自信を持つんだ。俺なら――やれる!


「な、何者だ!」

「敵襲! 迎撃しろ!」

「こいつら、魔獣まで!」


 相手にこちらの存在が知られた。俺は左側の敵を倒す、ただそれだけを考えろ!


「ぶっ飛べええええええええぇぇぇぇっ!!」


 俺はそう叫びながら、攻撃用魔導具――レーヴァテインを振り抜いた。

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