第292話:勇者と剣聖と鑑定士 33
――ドゴオオオオオオオオォォォォン。
……やり過ぎたか?
いや、そこまで威力を追求した魔導具ではなかったし、きっと魔法が爆発を誘発させるような場所に命中でもしたんだろう。……たぶんだけど。
「お、おい! なんだ、今のは!」
「俺たちも行くぞ!」
「でも、ここの見張りはどうするんだ?」
「あぁ~! それなら、お前が残れ! あとは全員で宿舎へ応援に向かうぞ!」
おっ! 予想通りの展開になってくれたようだ。
見張りが全員いなくなったわけじゃないけど、一人だけならどうとでもなる。
念のため中の見張りはっと……よし。まだいるにはいるけど、数はだいぶ減ったな。
「ここからは時間との勝負だ。魔導具を渡したからといって、絶対に大丈夫というわけじゃないからな」
「確率の問題か?」
「あぁ。1%でも死んでしまう可能性があるのなら、限りなくゼロにするため迅速で行動するべきだ」
俺の言葉に新たちも頷いた。
まずは残っている見張りを無力化することだが、新に突っ込んでもらって気絶させる方が早いかな。
「サンダースパイク」
「え? せ、先生?」
「あばばばばっ!?」
どうするのが最善かと確認しようとした矢先、先生が雷魔法を使って見張りを気絶させてしまった。
……まさか、自ら率先して魔法を放つとは、予想外だ。
「ちょっと、先生。いきなり魔法はビビるから止めてくれよ」
「でも、迅速に、でしょ?」
「……おっしゃる通りで」
「ならいいじゃないの。さあ、行きましょう」
ここに生徒会長たちがいると知っているからか、やる気満々なんだよなぁ、先生。
そのやる気が足を引っ張らなければいいんだけど……森谷がついてくれるから安心ではあるんだが、それでも心配にはなってしまう。
「そろそろ次の見張りが見えてくるけど、今度は新に任せよう」
「どうして?」
「近くに別の見張りがいる。ここで魔法を使ったらすぐにバレちゃうよ」
これから対処する見張りは一階にいるが、もう一人がすぐ上の階の廊下を進んでいる。
魔法の光、もしくはさっきみたいに変な声をあげられたら駆け付けてしまうだろう。
「乱戦になって無駄に傷を負うのは避けたいよな」
「本当に安全第一だよねー、桃李君はさー」
「俺のとりえはそれくらいだからな」
「そういうことならわかった、俺が行こう」
剣の柄から手を離し、小さく息を吐きだしながら意識を集中させている新。
曲がり角に身を潜めていた俺たちだが、新は大きく息を吸い込むと角から飛び出して一気に見張りへ接近する。
「ん? なんだ――がっ!?」
おぉ、すごいな、新の奴。手刀を使って一撃で見張りを気絶させやがった。
上の見張りも一階の異変に気づいていないみたいだし、大丈夫そうだな。
「このまま侵入するけど……ここでも二手に分かれよう」
「え? それはどういうことなの、真広君?」
俺の言葉に先生が質問を口にする。
「どうやらマリアと生徒会長は、他の三人と別行動をしているみたいなんだ」
「だから、別々に対処しに行こうってこと?」
「あぁ。俺と新とサニーはマリアと生徒会長を。先生と森谷とライドさんとハクは他の三人のところへ向かってほしい」
本当であれば全員一緒に行動した方がこちらの生存確率は高いのだが、生徒会長たちを助けることに重きを置くのであれば、こちらの方が確率は高くなる。
特に生徒会長が生き残る確率が大きく跳ね上がるものだから、他の選択肢は選べない。
おそらくは新がかかわっているんだろうけど。
「こっちはどうにかして生徒会長を説得します。……新が」
「俺か?」
「そりゃそうだろう。俺に説得されたところで生徒会長は動かないよ」
単なる同級生の言葉より、共に学校生活を楽しんできただろう親友の言葉の方が琴線に触れるというものだ。
「残り三人は先生に任せます。言葉を尽くすもよし、それでダメならさっきの見張りみたいに魔法で気絶させるもよしですよ」
「わかったわ。私なりに、みんなを説得して見せるわ」
「くれぐれも! 自分を犠牲にするなんてことはしないでくれよな!」
「それはどうかしら? でも、最善を尽くすわ」
……心配だ。
俺は横目で森谷をちらりと見ると、彼は肩を竦めながらも小さく頷いてくれた。
「……任せたからな」
「気を付けてください、二人とも」
「真広君と御剣君もね」
「ご武運を祈ります」
「こっちは任されたよー」
俺は先生だけではなく、森谷にも任せたという言葉を送り、向かう先を指示したあとに別行動を開始した。
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