第290話:勇者と剣聖と鑑定士 31
――……王都と聞いていたが、なかなかに殺伐とした雰囲気だなぁ。
俺が王都に入って感じた第一印象が、これだった。
まあ、戦争をして手に入れた土地なのだから、勝ったからといって諸手を挙げて賑やかに日々を過ごすなんて、できはしないか。
「それにしても……まさかこんな方法で潜入が成功するとはな」
「むしろ、このような方法はトウリ様がいなければ成功しないでしょう」
そう口にしたのはディルクさんとフィリアさんだ。
まあ、鑑定スキルを使ってロードグル国の王族にしか知らない抜け道……それも、皇太子殿下であるディルクさんすら知らない抜け道である。
王様が討たれた時点で、普通なら誰にも知られることなく朽ちていくはずだった道だもんな。
「すでにマリアの居場所は把握しているけど、どうする?」
「真広の鑑定ではどう出ているんだ?」
「確かに、それが気になるわね」
「あぁ、それなんだが……どうやら、戦闘は避けられないみたいだ」
新と先生の言葉を受けてそう口にしたが、こればっかりはどうしようもない。
何せマリアの周りには――
「生徒会長だけじゃなく、残りのクラスメイトもピッタリとマリアにくっついているみたいだからな」
「護衛、ということか?」
「多分な。おそらく、最前線の戦場でマリア軍が敗北したから、警護を強化したってところじゃないか?」
「そうなると、どでかい魔法をぶっ放すこともできなくなるわね」
「「……せ、先生」」
さすがに街中で、それも王城にどでかい魔法をぶっ放すのはダメだろうよ。
「うふふ、冗談よ」
「冗談に聞こえないから怖いんですけどね」
「だがまあ、実際のところどうする? どうするべきかもすでに出ているんだろう?」
「まあ、そうなんだけどな。でも……今回も人がかかわっているからか、はっきりとした答えが出てこないんだ」
この辺りは生徒会長やクラスメイトたちがどのように動くかによって変わってくるからだろう。
赤城の時もそうだったが、彼女の行動や思考によってどういう結果になるのかが変わっていた。
生徒会長たちが改心してくれれば話は早いんだが、それは絶対にないだろうなぁ。
「……トウリに問いたい。我らでそなたらが口にしている者たちの相手ができると思うか?」
「それって、生徒会長やクラスメイトの相手ってことですよね?」
「あぁ」
「……はっきり言って、厳しいと思います。特に生徒会長を前にしたら、簡単に殺されるでしょうね」
変に濁しても意味がないと思った俺は、はっきりと答えた。
俺の答えにフィリアさんはムッとした表情を浮かべていたものの、ディルクさんは冷静な表情のまま一つ頷いた。
「であれば、我らはトウリたちの戦いの邪魔が入らないよう、軍の足止めに専念するか」
「で、ですがディルク様!」
「別に逃げるわけではない。まあ、勝負の決着を任せることになるのは歯がゆいが、死んでしまっては意味がないからな。そうだろう、トウリよ」
「……その通りだな」
ディルクさんにはこれからのロードグル国を担ってもらい、アデルリード国やシュリーデン国とより良い関係を築いていってもらいたい。
だからこそ、こんなところで倒れてもらいたくはなかった。
「ギースさんはディルクさんたちと一緒に行ってもらえますか?」
「んなあっ! ここまで来て仲間外れかよ!」
「大暴れできるのはこちら側だと思うぞ、冒険者」
「あぁん? てめぇ、王族だからって冒険者を下に見ているんじゃねぇだろうなあ! いいぜ、行ってやるよ! だがなあ、俺は俺のやりたいようにやってやるからな! お守りはそっちのお嬢さんにしてもらうんだな!」
「貴様! ディルク様に向かってなんということを!」
「あのー、お二人さーん? 今が潜入中だってこと、わかってますかー?」
王城の誰もいない部屋に隠れているとはいえ、あまりに大きな音を立てれば外に聞こえるかもしれない。周りに誰もいないことは確認済みだけど、できれば静かにしておいてほしい。
「それじゃあディルクさん、フィリアさん、ギースさんは、俺たちがマリアたちを襲撃している間、軍が駆け付けないよう足止めを頼む」
「心得た」
「俺たちはマリアのいる方へ向かうけど……先生、もしもの時は覚悟を決めてくれよ」
「……嫌よ」
「先生」
この人は、本当に頑固だなぁ。まあ、自分が死んでも生徒を助けたいと思っていた人だし、こうなることはわかっていたけどさ。
「私の全力をもってみんなを助ける。だから、止めないでね、真広君」
「……はぁ。わかったよ」
「ありがとう。それと、ごめんね」
先生は謝ってくれたが、俺はわかったと言ったものの納得はしていなかった。
「……森谷。先生のことを頼めるか?」
「……任されたよー」
俺は森谷という保険を掛けると、隠れていた部屋を飛び出して行動を開始した。
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