第289話:勇者と剣聖と鑑定士 30

 同行者は増えたものの、森谷のおかげで移動速度をそこまで落とすことなく進むことができた。

 途中からフィリアさんも空を飛ぶことに慣れたのか悲鳴をあげることはなくなった。

 ……いや、少なくなったという方が正しいか。

 低空飛行であれば問題はないのだが、時折森谷が調子に乗って高度を上げた時などはどうしても悲鳴をあげてしまう。

 ってか、あれは俺でも悲鳴をあげそうだ。なんか、グルグル回っていたからな。

 まあ、そんなこんなで道中は楽しい……と言っていいのかはわからないが、賑やかに進んでいった。

 そうしてとうとう、俺たちはロードグル国の王都が見渡せる場所までやってきた。


「あれが、そうなんですか?」

「その通りだ。……まさか、こうも早く王都を拝める日が来ようとはな」


 俺の言葉にディルクさんが答えると、感慨深そうに王都を見下ろしている。

 まあ、皇太子殿下様にもかかわらず王都を脱することになってしまったのだから、その想いはひとしおだろう。


「……俺たちは潜入してマリアを捕らえるつもりだけど、そっちはどうするんだ?」

「王都を取り戻す。この身に代えてもな」


 ディルクさんたちと一緒に来たものの、俺たちとの目的は若干だが違っている。

 こちらはマリアの確保、もしくは殺害。そして生徒会長たちの救出、敵対してくるようであれば意識を刈り取っての確保。

 一方でディルクさんたちは単純明快、王都の奪取。

 別行動を取る、という選択肢ももちろんあるが、そうして二人が死んでしまっては目覚めが悪い。

 となると……まあ、選択肢はあってないようなものか。


「それじゃあ玉砕もいいところじゃないか?」

「そう簡単にくたばるつもりはないがな」

「ディルク様は私が命に代えてもお守りいたします!」

「命に代えられたらこっちが目覚め悪いんですよ」

「え?」


 フィリアさんの言葉にそう返した俺は、小さく息を吐き出してこう提案した。


「俺たちと一緒に行かないか?」

「こちらとしてはありがたい提案だが……いいのか?」

「フィリアさんにも言ったけど、誰かが命を落とすなんてことになったら、こっちの目覚めが悪いからな。一緒に行動した方が助かる確率は上がるし、何よりお互いの目的を達成しやすい」


 そう鑑定結果に出ているんだよな、これが。


「ふむ……しかし、そうなるとさらにトウリたちに返せない借りが増えてしまいそうだ」

「少しずつアデルリード国に返してくれればいいさ。それこそ、ディルクさんの代じゃなくても、次世代でもな」

「……それは大きな借りになりそうだが、現状ではそれが最善ではあるか」

「それしかないっての。これ以外だと二人とも――間違いなく死ぬぞ?」

「「――!?」」


 確信を持って放たれた俺の言葉に、二人は驚きと共に警戒した視線をこちらへ向けてきた。


「……それも、鑑定スキルによる何かなのか?」

「あぁ。神を冠するスキルの力、と言っておけば信じてもらえるか?」


 俺個人を信じてもらうよりも、こうして言っておけば多少は信じてもらいやすくなるだろう。


「……信じよう」

「ならよかった。それじゃあ一緒に行動するということで――」

「だが、信じるのは神を冠するスキルだからではない。トウリ、お前を信じるということだ」

「……え? それは、どういう?」


 これは予想外の言葉に、俺は思わず聞き返してしまった。


「まあ、今までの行動を見せてもらえば、信じないなんていう選択肢は出てこないだろう」


 ディルクさんの言葉にフィリアさんも大きく、それも何度も頷いている。


「鑑定スキルに魔導具、そして同行者にも実力者が大勢いるのだ。ここでお前たちに乗らなければ、俺は国を取り戻せたとしても歴史上最大の愚王として名を残すことになるだろうな」

「いや、さすがにそうはならないだろう」


 俺は本気でそう口にしたのだが、ディルクさんも本気だったのか、キッとこちらを睨んできた。


「トウリ。お前はもっと自分の力に自信を持った方がいい。謙虚は美徳かもしれんが、時に見下しと取られることもあるからな」

「お、俺はそんなこと思ってはいないぞ?」

「わかっている。だからこそ、自信を持てと言っているのだ」

「……わかった。ありがとう」


 こうして俺たちは、共にロードグル国の王都――ロザーナへ潜入することになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る