第288話:勇者と剣聖と鑑定士 29
「ぎゃああああぁぁああぁぁっ!?」
「ふはははは! これはいい、これはいいぞ!」
一人は予想通り、一人は予想外の反応を示したな。
悲鳴をあげているのがフィリアさんで、楽しそうにしているのがディルクさんだ。
フィリアさんほどではないが、ディルクさんも悲鳴の一つや二つあげるかと思ったんだが、まさかこの状況を完全に楽しんでしまうとは、予想外である。
「タイキよ! この魔法は我らにも扱うことができるのだろうか!」
「魔力量が桁外れに多くないと無理かなー。特級職の魔法職でギリギリ使えるかどうかだと思うよー」
「ほほう! ということは、タイキは特級職か、それ以上の職業ということになるな!」
森谷の奴、まさか墓穴を掘ったなんてことはないよなぁ。
「鋭いねぇ。僕は魔導士【神魔】、神級職だよー」
「っておおおおぉぉいっ!?」
「どうしたんだい、桃李君?」
「お前、自分のことをそんなペラペラと話していいのかよ!」
タイキ・モリヤはこの世界の悪魔として知られてしまった名前である。
故に、この世界のほとんどの人がこの名前を恐れ、子供たちにはおとぎ話の悪魔や魔王、いわゆる恐怖の存在として知られているのだ。
それにもかかわらずディルクさんは普通に森谷と会話しているのだが……国によって実は森谷の伝わり方が違っていたりするのだろうか。
「なんと! シュリーデン国……ではないか。アデルリード国には神級職が二人もいるとはなぁ」
「特級職も豊富だから、絶対に戦争なんて仕掛けてくるなよな!」
「トウリよ、これだけの情報を得ておいて戦争を仕掛けるバカはいないだろう」
「僕もそう思うなー」
お前はどっちの味方なんだよ、森谷!
「しかし、飛行魔法か。使ってみたいものだが、さすがに難しそうだな」
「一人くらいなら、大量の魔力を補えるものがあれば飛べるかもねー。まあ、少しの距離だけど」
「本当か! だが、魔力を補えるものか……そんなものがあるのか?」
「そこはまあ、桃李君が魔導具で?」
……はい? なんでそこで俺の名前が出てくるんだ?
「なるほど! トウリ、頼んだぞ!」
「いやいや! 俺は関係ないからな! 森谷も俺に振るんじゃなくて自分で作れよ!」
「いやー! 僕は魔力が大量にあり過ぎてそっち方面の研究はしてこなかったんだよねー! だからさ、これは桃李君がやるべき研究……もとい、鑑定すべきものだと思ってねー!」
別に俺は魔力を補いたいとは思っていない。そもそも、こちら側にはステータスを一時的とはいえ上げることができる果物があるんだから必要ないのだ。
「では、我がロードグル国を取り戻し、王として君臨することができれば、国としての交渉ごととしてアデルリード国へ赴こう!」
「ちょっと! そんな面倒なことはやめてくれよ!」
「何故だ? 個人間の交渉では受けてくれないのであろう?」
……こ、この野郎!
「だー! わかったよ! でも、できるって保証はないからな! それと、まずは戦争を終わらせることが先決だ! やるならそのあとだからな!」
「もちろんだとも! 頼むぞ、トウリ!」
なんだろう、森谷の掌の上で転がされている感じがするのは。
気のせい、ではないよな?
「……にこー!」
こ、この野郎! 絶対にすげえ魔導具を作って見返してやるんだからな!
「全く。真広たちはなんの話をしているんだ?」
「うふふ。楽しそうでいいではないですか」
「……お、遅くなっても、早いですねぇ」
聞こえているからな、そっちの三人! というかライドさんは酔い過ぎだろう! だいぶ遅いペースにしているからね!
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