第287話:勇者と剣聖と鑑定士 28
――ディルクさんの屋敷で一泊し、翌朝には出発する……予定だったのだが。
「……何をしているんですか、ディルクさん?」
「もう出発するのだろう?」
「まあ、そうなんですが……どうしてあなたまで旅支度を?」
そう、何故かディルクさんまで旅支度を終えて、屋敷の玄関に立っていたのだ。
その隣にはフィリアさんもいて、彼女もまた旅支度を終えている。
これはあれか? もう、考えなくてもいい、あれなんだよな?
「……一緒に行くつもりですか?」
「当然だろう」
「えっと、何が当然なんだ?」
「お前たちはマリアを捕らえる、もしくは殺しに行くのだろう?」
「えぇ、まあ」
「ならば、その場に我がいれば即座に国を奪い返せるというわけだ」
うーん、理屈はわかるけど、それってつまり、皇太子殿下がわざわざ敵しかいない中心地に足を運ぶということなんだが、そこは理解しているのだろうか。
「殺されても文句は言えませんよ?」
「構わん。我にはフィリアがいるからな」
「はっ! わが命に代えても、ディルク様をお守りいたします!」
覚悟の上ってことか。
ってか、フィリアさんがいるから大丈夫なんて、どんだけ彼女のことを信頼しているんだよ。
……そんな相手が敵に回っていたのもどうなのかと思わなくもないけどな。
「……なんだ?」
「いや、なんでもない」
おっと、ここでも顔に出ていたようだ。
「ってか、同行できるかどうかは俺が決めることじゃないんだよなぁ」
「安心しろ。すでにライドには許可を貰っている」
……ライドさんめええええぇぇっ!
「落ち着いてください、トウリ様」
「……どうやって移動するつもりですか? サニーとハクにはもう乗れませんよ?」
森谷の魔法で移動できるかどうかもわからない状況で、勝手に決めてもらうのは困るんだけどなぁ。
「タイキ様にはすでに許可を頂いております」
「……あー、そうですか、そうですよね!」
根回しが良すぎるんだよ、この人たちは!
「あれー? 運ぶって言ったのはマズかったかなー?」
そこに遅れてやってきたのは森谷だった。
「いや、マズいってわけじゃないんだが……お前、力を見せびらかしていいのか?」
俺は森谷に近づき、肩を組んでから耳元で確認を取る。
「まあ、同行していたらバレることだし、拒んだとしてもきっと勝手についてくるよ、この人たちは」
森谷の言葉に俺は横目でディルクさんを見る。
ディルクさんと目が合うと、彼にニヤリと笑った。
「……ったく、あれで本当に皇太子殿下なのかよ」
「好戦的な人なら、ああなっちゃうだろうねー」
「護衛対象が増えるけど、大丈夫なのか?」
「僕なら大丈夫だよ。なんだい、心配してくれているのかい?」
「……んなわけあるか! 俺はライドさんの心配をしているんだよ!」
……でも、そのライドさんが勝手に森谷に話をつけて、ディルクさんたちの同行を許可したわけだから、俺が心配する必要もないのか?
「なんにせよ、移動は森谷に任せるってことになるんだな?」
「そうだねー。楽しい旅になるよう、高く飛んじゃおっかなー?」
「……普通に飛んでくれ、普通に」
何かやろうとしているみたいだが、些細な問題も極力なしで進みたいので却下である。
そうこうしていると新たちも玄関までやってきた。
「どうしてディルク様たちが準備を終えているんだ?」
「同行するみたいだ」
「ライド様がなんだか動き回っていたのは、そういうことだったのね」
「ふわああああぁぁ……なんだぁ? まーた増えんのか?」
あなたが言うなっての、ギースさんよ。
「それじゃあまあ、とりあえず出発しますか」
「よろしく頼むぞ、トウリ、タイキよ」
「はいはーい! お任せあれー!」
……あの軽い感じ、心配だなぁ。
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