第284話:勇者と剣聖と鑑定士 25
場所を移そうとディルクさんに言われて向かった先は、反乱軍が拠点にしている小さな集落だった。
最初こそ『本当にここか?』と疑いそうになったが、よくよく見てみると外観こそボロボロだが、集落に入ってみると内側は立派なものだ。
建物も木造だがしっかりと建てられており、多少の揺れでは崩れないだろう。
食糧も安定しているのか、行き交う人たちはみんな肌艶もよく、飢餓に苦しんでいるようには見受けられない。
不思議に思いディルクさんに聞いてみたが、どうやらこれでもギリギリのようだった。
「今はまだ大丈夫だが、一週間後からは食事を切り詰める予定になっていた。我の魔法鞄に入れていた食糧もあと僅かだからな」
「そうだったんですね。そっかー、食糧かー」
……もしかして、不良在庫を捌くチャンスなのでは?
「ディルクさん。食糧は魔獣の肉でも構いませんか?」
「食用であれば問題ない。むしろ、肉の方が皆も喜ぶだろう」
「俺の魔法鞄に大量の魔獣の肉があるんですが、支援しましょうか?」
俺の提案にディルクさんはハッとした表情でこちらへ振り向いた。
「……何が望みだ?」
「俺たちはマリアを捕らえる、難しければその場で殺す、という王命を受けているから、その協力をお願いしたいかな」
「我らにとってはありがたい提案だが、それだけか?」
「俺からはそうかな。でも、ライドさんからは別の何かがあるかもしれないので、あとはそっちで話し合ってください」
俺がそう口にすると、ディルクさんは何故か嫌そうな表情を浮かべた。
だって、交渉ごとはよくわからないし、それならわかる人に役割を振った方が、より建設的な話ができるというものだろう。
「というわけで、よろしくお願いいたします」
「……わかった。あれが我の屋敷だから、中で話そう」
ディルクさんが指差した屋敷は、周りの建物と比べるとやや広いくらいの平屋の屋敷だ。
戦争中の反乱軍からすれば十分すぎるくらいの屋敷だと思うが、フィリアさんからするとあり得なかったのか、口を開けたまま固まってしまった。
「……でぃ、ディルク様が、このような屋敷に?」
「このような、だと?」
「あっ! いえ、失礼いたしました!」
まあ、怒るよな。
ディルクさんは反乱軍として必死に活動してきたのだろう。それこそ王族が経験しないであろう下品で汚いことにも触れてきたに違いない。
そんな中から出来上がった屋敷に対して、このようなとは、さすがに配慮がなさすぎる。
「……はぁ。フィリアよ、これが我でなければ首を斬られていてもおかしくはないぞ?」
「……め、面目次第もございません」
本当に、この二人でよかったと思ってしまった。
ここまで来ておいて、結局殺すとなれば目も当てられないからな。
「ちなみにだが、トウリよ。魔獣肉はどれほどの量があるのだ?」
屋敷の入り口でそう言われてしまい、答えるよりも見せてしまった方が早いかと考えた俺は、ひとまず玄関が隠れるくらいの大きさの魔獣を取り出して見せた。
「まずはこれですね」
――ドンッ!
「うおっ!? な、なんだ、この魔獣は!!」
「何って、メガブルホーンですけど?」
「で、でかすぎるだろうが!」
「でも、このサイズがまだまだありますけど?」
「……な、なんだと?」
思考停止状態になっているところへ追い討ちを掛けるように、俺は耳元でボソリと呟いた。
「それと、ドラゴン肉もありますよ?」
「んなっ!? ……そ、それはいらん。恩を返すことができなくなりそうだからな」
すぐに食いついてくると思いきや、できることとできないことをしっかりと区別しているようだ。
とはいえ、ドラゴン肉も陛下たちに出すか、特別なイベントの時にくらいにしか出す機会もないので、気づかれないようディルクさんにだけはこっそりと出してみるか。
「それじゃあ、メガブルホーンをとりあえず五匹、出しておきますね。解体は任せてもいいですか?」
「……このサイズが……五匹か……」
あれ? 喜ばれるかと思ったが、なんだか呆れられてしまった。
まあ、食糧は多い方がいいだろうし、勝手に出してしまおうかな。
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