第283話:勇者と剣聖と鑑定士 24
戻ってきた新たちは、手ぶらというわけではなかった。
ハクには新とギースさん、それに新が叩き潰した副将が縛り上げられた状態で乗せられていた。
「捕虜として捕らえてきた」
「ちくしょう! 総大将よりもそいつの方が強かったじゃねえか!」
「……」
新とギースさんが会話をしている中、副将は無言のまま周囲を窺っている。
逃げる算段でもしているのかと思ったが、そうではなかった。
一人の人物を見つけると、副将は申し訳なさそうな表情に変わり口を開いた。
「……ディルク、様」
「どうしてこうなったのだろうな、フィリア」
……フィリア? 副将の女性の名前だろうか。
というか、ディルクさんと副将、顔見知りだったのか。
「こちらについてくれれば、こうはならなかっただろうに」
「……そうですね。今になって後悔しても遅いですが、私の選択は間違いだったようです」
「……覚悟はできている、ということか」
「……はい」
ふむ、どうやらこのままだと副将は処刑されるみたいだ。
しかし、その決断を下すだろうディルクさんは表情こそ変わっていないが、その声音は先ほどと比べて元気がないように聞こえる。
……これは、口を挟んでも問題ないかな。
「あー、ちょっといいですか、ディルクさん」
「……なんだ、トウリよ」
「彼女ですけど、処刑しなくてもいいと思いますよ」
「「……は?」」
おっと、まさかディルクさんだけではなく副将からも驚きの声が漏れてくるとは思わなかった。
まあ、覚悟している人間の前で、その覚悟は必要ないと言っているようなものだからな、この反応も頷けるか。
「こっそりと鑑定を使ってみたんですが、ディルクさんへの敵対心はないみたいです」
「ならば何故、前線にまで出てきて戦闘を繰り広げていた?」
「フィリアさん、でいいですか?」
「……あ、あぁ」
「この場にディルクさんがいると知らなかったんじゃないですか? もしくは、知らされていなかったとか?」
「――!? ……あなたは、何者なのですか?」
どうやら図星だったのか、こちらの問い掛けに答えるより前に、俺が何者なのかを聞いてきた。
「俺はしがない鑑定士だよ。それで、どうなんだ? フィリアさんはディルクさんに敵意はあるの? ないの?」
「……あなたのおっしゃる通り、私はディルク様がこの場にいるとは知らされていませんでした」
「だからといって反乱軍と敵対していい理由にはならんだろう」
「もちろん、その通りです」
「ならば何故、お前は前線に出てきてまで反乱軍に剣を向けた?」
……さて、これ以上は俺にできることはない。
フィリアさんの言葉を聞き、ディルクさんがどうするかを決める、ただそれだけだ。
「……ディルク様のために」
「我のためだと?」
「はい。反乱軍はディルク様を利用していると、あなたを助けるためには反乱軍を制圧する必要があるのだと、伝えられておりました」
「それを信じたのか?」
「……申し訳ございません」
「……はああぁぁぁぁ。全く、お前は昔から相手の言葉をそのまま飲み込んでしまう悪い癖がある」
「……返す言葉もございません」
「だがまあ……お前だからこそ、その言葉も信じられるな」
「……え?」
どうやら、丸く収まるみたいだな。
「我と来い、フィリア・フィン。お前の剣が、我には必要だ」
「……許して、いただけるのですか?」
「誰であれ、我にはまだまだ信頼できる仲間が必要だ。お前であれば、我は信頼できる」
「……ディルク様!」
「それで? 来るのか、来ないのか、どっちだ?」
そう口にしたディルクさんが新を見て一つ頷くと、新はフィリアさんを縛っていた縄を切った。
「……私、フィリア・フィンは、ディルク・ロードグル皇太子殿下に剣を捧げることをここに誓います」
「今後は周りの言葉に惑わされるな。我の言葉だけに従え、いいな?」
「はっ!」
これでようやく俺たちも前に進めそうだな。
※※※※
【一週間の宣伝マラソン!最終日!】
『鑑定士』2巻の発売を記念した一週間の宣伝マラソンも、本日でラストとなりました!
私はまだ地元の書店にて本が並んでいる姿を見れていない……うぅぅ、悲し過ぎる。。
とはいえ、各書店様のランキングにも載ってくれていたので、ありがたいことでございます! 皆様、本当にありがとうございます!
タイトル:職業は鑑定士ですが【神眼】ってなんですか? ~世界最高の初級職で自由にいきたい~ 2
レーベル:MFブックス
イラスト:ゆのひと先生
発売日:2022/08/25
ISBN:9784046816559
まだまだ売れてほしい! 続刊したい! 重版したい! という思いはもちろんありますので、今後とも『鑑定士』をよろしくお願いいたします!
(次の更新は二日後となり、二日に一回の更新に戻りますので、こちらもよろしくお願いいたします!)
※※※※
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