第276話:勇者と剣聖と鑑定士 17
その後、俺たちは森谷の酔い覚ましの魔法を活用して一気に距離を稼ぐことに成功した。
最初からこれを使っていればオズディスに立ち寄ることもなかったのではと思わなくもなかったが、ギースさんの同行が決まり、先生は友人と呼べる人物と知り合うことができたようなので、今回はお咎めなしとなった。
……ていうか、マジでなんで黙ってたんだって話なんだよな。
「だって、楽しいだろう? 旅路は楽しくなくっちゃねー」
というのが、森谷の答えだった。
まあ、わからなくはないのだが、急いでいる新からすると煩わしくもあるのではないかと心配になってしまう。
「大丈夫か、新?」
「俺か? ……あぁ、大丈夫だ。焦ったところで良い結果に繋がるとも思えないしな。それに、森谷さんが言うように、せっかくの異世界のたびじなんだから、楽しまないとな」
どこか暗い表情だった新だが、最後の言葉を口にした時の微笑みは本物だったように思える。
生徒会長のことは心配なんだろうけど、新はどこに行っても、ラノベ好きの俺の友達ってことだな。
こうして進んでいきながら、時折魔獣と戦いギースさんにその特徴を教えてもらい、野営の時にもどうすればいいのかを指導してもらった。
そして――俺たちはようやくロードグル国との国境線へ到着した。
「長かったような、短かったような、そんな感じだな」
「だいぶ短かったと思いますよ、シュリーデン国の王都からここまで、普通であれば一ヶ月は掛かるでしょうから」
「そうだぜ、トウリ。オズディスからでも半月以上は掛かるんだ。それを一週間で踏破したんだから、マジで短いっての」
俺の呟きにライドさんとギースさんが答えてくれた。
「この先に、光也がいるんだな」
「神貫君……」
新と先生がそう口にすると、二人は小さく息を吐き出した。
「……行こう、真広」
「……行きましょう、真広君」
「そうだな。生徒会長の目を覚まさせて、ついでにマリアを捕まえてやろうぜ!」
「それでは私が話をつけてきます。少々お待ちください」
まずはライドさんが国境線を守る兵士へ声を掛けた。
オルヴィス王の相談役ということもあってすぐに偉い人が現れたのだが、何やら話が長引いているように見える。
「どうしたんだ?」
「何か問題でもあったんじゃないか?」
「私たちも行きましょう」
俺たちは顔を見合わせると、やや早足でライドさんのもとへ向かった。
「ライドさん」
「あぁ、申し訳ありません、皆様」
「何かあったんですか?」
俺の問い掛けに、ライドさんは険しい表情のまま一つ頷いた。
「どうやら、マリア・シュリーデンを倒すために組織された反乱軍が、マリア軍と国境線の近くで戦闘中のようなのです」
「反乱軍だって?」
「はい。安全に中枢へ向かうのであれば、戦闘が終わるのを待ってから向かう方が良いのではないかと相談していたところなのです」
反乱軍ってことは、元々ロードグル国で暮らしていた民とか兵士とか、そのあたりだろう。
マリア軍の数が減ってくれるのは正直ありがたいが、その結果として反乱軍に死者が出てしまうのは気持ち的にあまりよろしくない。
俺たちも巻き込まれた側だが、ロードグル国の民たちも似たようなものだからな。
それも全てゴーゼフ王が悪いのだが……まったく、捕らえられてからの方が俺たちに面倒を掛けているんじゃないだろうか、あの愚王は。
「マリア軍の中に、みんなはいるのかしら?」
「どうだろう。でも、もしいたなら反乱軍はあっという間に壊滅しているんじゃないかな」
「光也ではなくても、同行している奴らは上級職だからな」
「……そうよね」
まあ、先生の心配は生徒たちになるわな。
「どちらにしても、俺たちが介入しない理由はどこにもないか」
「行くのか、真広?」
「マリアを退けたあと、この国を率いていく人たちかもしれないだろう? なら、恩を売っておくのはありじゃないか?」
「……わかりました。皆様の選択を私も支持しましょう」
ライドさんからも許可が下りたことで、俺たちはすぐに行動へと移す。
「戦闘はここより南西の位置になります。馬で二時間ほど進んだ場所ですが、移動は大丈夫でしょうか?」
兵士が心配そうに聞いてきたが、俺たちの移動手段は馬よりも明らかに速いので問題はない。
「大丈夫です! 行くぞ、みんな!」
こうして俺たちはサニーとハクに跨り、森谷とギースさんは魔法での移動となり、最大速度で南西へと向かった。
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