第275話:勇者と剣聖と鑑定士 16

「――よーし! それじゃあ行くぞー!」


 オズディスの門の前では、何故かギースさんが一番元気よく声をあげていた。


「それで、モリヤ! どうやって移動するんだ?」

「待て待て! ギース、見送りの俺たちを無視するな!」

「本当ですよ! 本当に申し訳ありませんでした、皆さん」


 そこでラグダさんがギースさんを宥め、彼と同じ酒場に連れていってしまったことを後悔していたイリーナさんが何度も頭を下げていた。


「実力のある同行者ができたことは喜ばしいことですよ」


 ニコニコ笑いながらライドさんがそう口にすると、ラグダさんと言い合っていたギースさんが何故か胸を張っていた。


「それじゃあ皆さん、また会いましょう」


 ここで時間を潰すのも勿体ないので、俺はそう口にするとサニーに跨った。


「イリーナさん、また飲みましょうね」

「ぜひお願いします、ハルカ殿」


 先生とイリーナさんが固い握手を交わしている。どうやら、熱い友情が芽生えたようだ。……まあ、酒の席でだけど。


「ハクには前と同じで新と先生とライドさんが乗ってください」

「わかった。ライド様、速度は少しだけ遅くしますね」

「ありがとうございます! アラタ様!」


 ライドさんが涙ながらに新へお礼を口にしている。

 ……そんなに怖かったんだ、ハクのスピード。


「ギース君、そろそろ行くよー」

「おっ! やったぜ! それじゃあな、ラグダさん!」

「ったく。迷惑を掛けるなよ。それと……無事に帰ってこい」

「……はっ! 当然よ!」


 ずっと言い合っていた二人だが、最後の最後には拳を打ち合わせていた。

 友情、なんだろうなぁ。


「それじゃあモリヤ! よろしく頼むぜ!」

「はいはーい! それじゃあ、浮かすよー!」

「おう! ――うおっ!? ま、マジで浮いたぜ!」


 森谷が指をぱちんと鳴らすと同時に、ギースと一緒に体が浮いた。

 それを見たラグダさんとイリーナさんが驚きの表情を浮かべていたが、俺たちは気にすることなく手を振る。


「それじゃあ――また!」

「「お元気でー!」」

「どうやって移動するのか、楽しみだ――ずええええぇぇええぇぇ…………」


 ……ギースさんの悲鳴が、俺たちを置き去りにして先へ行ってしまった。

 森谷の奴、遊んでるなぁ。


 ◆◇◆◇


 俺と新たちは昨日よりゆっくり進みながら、大木に手をついて俯いているギースと、それを見ながら微笑んでいる森谷と合流した。


「森谷、遊んでただろう?」

「いやー、一度限界を経験した方が、そのあとから楽かなーと思ってねー」

「……ヤバい……あれは、ヤバ――うぅぅっ!?」


 合流したものの、このまま進むのはさすがにマズい……ギースさんが吐いてしまうかもしれないしれないと思い、少しだけ休憩を挟むことにした。


「……マジで、すまねぇ」


 ものすごく申し訳なさそうにしているものの、すぐに吐き気がぶり返してきたのか、顔を青くさせてまた俯いてしまった。


「やり過ぎだろう」

「休憩を挟むけど、トータルではこの方が早く到着できると思うよ」


 まあ、あれを経験したら多少速度を上げても問題はないだろう。

 とはいえ、ライドさんがハクの速度に慣れてくれないと、上げられないんだよなぁ。


「大丈夫ですか、ライド様?」

「……申し訳ありません、ハルカ様」


 あの速度で酔うとなると、さすがに慣れてもらわないとダメな気がしてきたぞ。


「なあ、森谷。酔い覚ましの魔法って、乗り物酔いというか、今回みたいな時にも使えないのか?」

「使えるよー」

「だよなー。使えるよなー。やっぱり慣れてもらわないと……ん? つ、使えるのか?」

「使えるよー」


 …………はい?


「「「「「だったら最初から使ってよ!!」」」」」

「いやー、楽しかったよー! あははー!」


 こいつ、楽しんでやがったな!

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