第267話:勇者と剣聖と鑑定士 8

「……へぇ。いいぜ、やろうか!」

「ちょっと待て! ライドさんもいきなり巻き込まないでください!」


 やる気満々のギースさんを見て、新は慌てた様子で声をあげた。

 だが、ライドさんは言葉を覆すつもりはないらしく、ニコニコしたまま新に声を掛けた。


「大丈夫ですよ。彼は確かに強いようですが……アラタ様ほどではないようですし」


 ん? どうしてライドさんがギースさんの実力を知っているんだろうか。

 もしかしてと思い俺は鑑定スキルを――ギースさんに向けて使ってみた。


「……あー、なるほど。そういうことか」


 俺はどうしてライドさんがいきなり物騒な提案をしたのか理解できた。

 どうやらライドさんは――人物鑑定ができる凄腕の鑑定士のようだ。

 ……いや、正しくは聖物鑑定士、鑑定士の上級職。

 鑑定スキルもレベル8と高く、これならディートリヒ様が重宝するのも納得というものだ。

 そして、人物鑑定を行ったうえで、新なら十分に勝てると踏んだのだろう。


「いいんじゃないか、新」

「真広、お前まで」

「この方法がたぶん、一番手っ取り早く三人を納得させて、都市の中に入れる方法なんだよ」

「……なんならもう、先に次の都市へ向かった方が――」

「アラタ様! 是非にお願いいたします!」


 新の言葉を遮るようにしてライドさんがかぶせてきた。


「…………はぁぁ。わかりました、やりましょう」

「へぇ~? あんたも俺に勝てると思っているみたいだなぁ」

「俺はそう思っていないが、二人が勝てると言ってくれているからな。それなら問題ないと踏んだんだ」

「二人、ねぇ」


 おいおい、新。変なことを言わないでくれよ。

 ギースさんがこっちにまで視線を向けてきたじゃないか!


「審判は公平を期すために、ラグダ様にお願いできませんか?」

「わ、私ですか?」

「はい。模擬戦は我々が提案したことですから、審判はそちら側にお願いするのが公平でしょう」

「いいんじゃねぇか、ラグダさんよ。公平にしてくれても、どうせ俺が勝つんだしよ!」


 そう言いながらギースさんは、背中に差していた本人よりも長さのある長槍を手にしてグルグルと回し始めた。


「あんたの攻撃が俺に当たることはねぇ! 圧倒的勝利で負かしてやるよ!」

「ならば、俺もあなたの攻撃を受けることなく一撃で決めてみせよう」

「自信満々じゃねぇか!」

「それはお互い様だろう」


 最初こそ嫌々だったはずの新だが、今ではやる気を出している。

 まあ、新もユリアほどではないが強い相手との模擬戦を楽しみにしている節はあったから、今回も相手が強敵だと知って内心では楽しんでいるのだろう。

 それに、長槍を使う相手に実力者はいなかったから、新にとっても良い経験になるかもしれないしな。


「それではラグダ様、よろしくお願いいたします」

「は、はぁ、わかりました」


 新とギースさんが、街道を外れた先で武器を構えて向き合う。

 オズディスの方からは何事かと声があがっているが、大丈夫だろうか。誰か説明に……と思っていたら、副兵士長のイリーナさんが向かってくれた。


「ぶった切ってやる!」

「槍なら刺すの方がいいんじゃないか?」

「刺すだけだと思っていたら痛い目に遭うぜ?」

「それくらいわかっている」


 最初こそ言い合っていた二人も、徐々に口数が減っていく。

 そして、一言も発しなくなったところでラグダさんが右手を上げた。


「それでは、模擬戦――始め!」


 合図と同時に飛び出したのは――ギースさんだ。


「あんたの言葉通りにぶっ刺してやるよ!」


 一直線に飛び出したかと思えば、長槍の間合いギリギリで強く踏み込み、渾身の刺突が繰り出される。


「あいにくと簡単にやられてやるつもりはないんだよ!」


 穂先が新に命中することはなく、鋭く斬り上げた直剣が長槍を弾き上げていた。

 渾身の刺突だったが、ギースさんもこれで終わるとは思っていなかったのか、素早く引き戻して連突きを放っていく。

 その全てを新は見切っており、回避や受け流しを駆使して一撃たりとも貰っていなかった。


「やるじゃねえか!」

「こっちは負けられないんだ、本気でいくぞ!」


 防戦一方と思われた新だったが、ここで一気に前へ出た。

 刺突を掻い潜りギースさんの懐へ――と思ったところへ、今度は足払いの横薙ぎが放たれる。

 それを読んでいたのか、新は左足を大きく上げると――そのまま長槍の柄を踏みつぶしてしまった。


「んなあっ!?」

「終わりだ!」

「そこまで!」


 ギースさんからすれば完全に予想外だったのだろう。

 驚きの声をあげたのと同時に新の剣がギースさんの首筋へ当てられ、続けざまにラグダさんから終了の声があがった。

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