第266話:勇者と剣聖と鑑定士 7
本来であれば今日の夜に到着するだろう次の都市に、俺たちは昼を少し回ったところで到着した。
その間、ハクは一度も止まることなく駆け抜けており、街道にいた人たちは結構驚いていたように見える。
途中から街道を外れて進んでいたのだが、それでも冒険者などはそういった場所で活動をしているのか、突然現れたハクに剣を向ける者もいた。
……まあ、当然ながらハクが人を襲うなんてことはないので、一瞬で通り過ぎていくアイスフェンリルを見て口を開けたまま固まっていたんだけどな。
「――……はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……あれ? ここは、どこでしょうか?」
必死にハクに掴まっていたライドさんが、顔面蒼白のままそう口にした。
「次の都市ですよ」
「……え? ま、まだ、お昼ですよね? もう着いたのですか?」
「まあ、ハクだからな」
「そうね、ハクだものね」
「そうだね、ハクだからねー」
「……はは、ははは……え? タイキ様も?」
ハクにも驚いていたが、一番は森谷がハクの速度についてきていたところらしい。
新や先生と同じように、普段と変わらない声音で呟かれた言葉に、ライドさんは若干顔を引きつらせていた。
「しかし……ここまで早く到着できたなら、次の都市を目指してもいいんじゃあ――」
「ちょっと待ってください! それでは私がもちません! 申し訳ありませんが、一度こちらの都市で休憩を! どうか、どうか!」
必死に頼み込んでくるライドさんを見ていると、さすがに申し訳なく思ってしまった。
「足を引っ張ってしまって大変心苦しいのですが、お願いいたします!」
「わ、わかりました! そうですね、休みましょう! 新もそれでいいか!」
「そうだな。ハクに乗っていたとはいえ、俺たちも疲れているからな」
「せっかくだから、都市の中を見て回りましょうか」
「さんせーい! 僕も疲れたから助かったよー」
全員の賛同を得られたことで、ライドさんは泣きながら何度も頭を下げてお礼を口にしていた。
とはいえ、すんなりと都市の中に入れるわけではない。
俺たちが急いだ理由で、門番にハクとサニーが安全な従魔であることを説明しなければならないからだ。
「あ、そこは私にお任せください」
「ライドさんに?」
「えぇ。これでも私、陛下の相談役ですからね」
……そうだったわ。
ということは、権力の力を借りるということだろうか。
そんなことを考えながら都市へ近づいていくと、予想通りに門番たちが忙しなく動き始めた。
門な内側から武器を持った冒険者風の人たちも出てきており、完全に臨戦態勢になっている。
「皆さん、落ち着いてください!」
そこへ声を張り上げたのはライドさんだ。
「我々はオルヴィス陛下の遣いの者です! 彼らはアデルリード国の協力者であり、魔獣も彼らに従う従魔です!」
ライドさんの声が届いたのだろう、門番や冒険者たちは顔を見合わせながらざわざわし始めている。
そこは三人の人間が代表してなのか、ゆっくりとこちらへと近づいてきた。
「お初にお目に掛かります。私はオルヴィス陛下の相談役をしております、ライド・フォンタニエと申します」
ライドさんが名乗ると、三人は明らかに驚きの表情を浮かべた。
「……お三方のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「あ! そ、そうですね。私はオズディスの兵士長をしております、ラグダと申します」
「私は副兵士長のイリーナです」
「俺はAランク冒険者のギースだ」
それぞれが名乗りを終えると、ライドさんが俺たちについての説明を始めた。
先ほど口にしたようにオルヴィス王の遣いの者であること、アデルリード国の協力者であること、特に従魔たちに危険がないことを念入りに伝えている。
その間、三人の視線がライドさんと従魔たちの間で忙しなく動いているのを見ると、やはり警戒はしているようだった。
「うーん……従魔、ですかぁ」
「にわかには信じられませんね」
「ぶった切った方がいいんじゃないか?」
やはりすぐには信じてもらえず、ギースさんに至っては物騒なことを口にしている。
「……いいえ、信じた方がよろしいですよ?」
すると、ライドさんが声音を低くしてそう口にした。
「なんだ? あんた、相談役だからって権力でねじ伏せようっていうのか? 言っておくが俺は冒険者だ。あんたらに従わないといけない理由なんてどこにもないんだぞ?」
「もちろん、存じております。ですが……実力的にみても、難しいかと」
「あぁ? てめぇからぶった切ってやろうか?」
……おいおい、なんだか物騒なことになってきたなぁ。
そんなことを考えていると、ライドさんはニコリと笑ってこちらへ――いいや、新へ視線を向けた。
「では、こうしませんか? こちらのアラタ様がこちらの従魔の主人になります。彼とギース様が模擬戦を行い、アラタ様が勝利すれば信じていただくというのは?」
「……え? お、俺ですか!?」
まさかの展開に、新が驚きの声をあげた。
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