第263話:勇者と剣聖と鑑定士 4
通された部屋は王の間かと思いきや、比較的簡素な調度品しか並んでいない部屋だった。
まさか、ウィンスター王のように気さく過ぎる王様、なんてことはないよなぁ。
そんなことを考えていると、シュリーデン国の新しい王様が奥の扉から姿を現した。
「あぁ、お呼び立てして申し訳ございませんでした」
……低姿勢! あまりにも低姿勢過ぎて王様ということを忘れてしまいそうだが!?
俺は驚き過ぎて本当に王様か疑いそうになり、視線をライドさんに向けてしまう。
「あの方が正真正銘、オルヴィス・レスフォレスト陛下でございますよ」
「あぁ、本当にすまないね。どうにもこの態度をすぐに変えることができなくてねぇ」
「いえ、その……とんでもございません」
「ああっ! そんなにかしこまらないでくれ! 王様とはいっても、臨時の王様なんだからね」
「いいえ、陛下。あなたはこれからシュリーデン国を率いていく偉大な王になっていただきますよ」
聞いた話だと、オルヴィス王は辺境の領地を治めていた穏健派の貴族だったはず。
とはいえ、王様になっても俺たちに対してペコペコ頭を下げるのはどうかと思うんだがなぁ。
それに臨時の王様って、そんなものあるわけないだろうに。
「そ、そうは言うけどねぇ、ライド殿」
「ライドで結構です」
「うっ!? ……ラ、ライド?」
「はい、陛下。そのために私は全力を尽くしてシュリーデン国の相談役としてこちらに在中させていただいているのですから」
「そ、それはそうなんだけどねぇ……」
「……あ、あの、陛下? どうして俺たちは呼ばれたんでしょうか?」
そちらで話をするのは構わないのだが、俺たちはなるべく急ぎでロードグル国へ向かいたいと思っている。
特に用事がなければ出発したいと思い声を掛けた。
「あぁぁ、本当にすまないね。実は、ロードグル国へ向かう君たちに折り入ってお願いがあって呼び立ててしまったんだよ」
「お願いですか?」
あまり良い予感はしないが、他国の王族になる人に恩を着せることができるなら、ちょっとした頼みくらいは聞いてもいいか。
「そうなんだ。実はねぇ――マリア・シュリーデンの真意を確かめてほしいんだ」
「……マリアの真意?」
マリアの真意とはどういうことだろうか。
ゴーゼフ、アマンダと同じで、シュリーデン王家は大陸統一を望んでいたんじゃないのか?
「正直なところ、マリア・シュリーデンがゴールド、アマンダと同じ思想だったとは思えないんですよ」
「その理由は?」
「彼女がロードグル国へ進行する軍へ帯同している際、私が治めていた領地にも足を運んだのですが、その態度は王族というよりも、一人の礼儀正しい貴族令嬢といった感じに思えたのです」
「……だから、マリアの真意を確認しろと?」
「もちろん、可能であればで構いません。何しろ、相手は皆様の命を脅かそうとするかもしれませんからね」
……さて、この言葉を素直に受け取っていいものか。
相手はここまでずっと低姿勢だったものの、マリアの話になった途端、貴族らしい雰囲気を醸し出してきた。
よーく考えれば、俺はオルヴィス・レスフォレストという人物のことを全く知らない。
今の態度が偽りであり、内心では全く別の人格を持ち合わせいる可能性だって少なくないはずだ。
相手は貴族、それもウィンスター王がこの人なら一国を任せても大丈夫と思わせた相手なのだから、油断はならない。
「……まあ、警戒するのも仕方がないですよね」
「あ、いえ……」
「マリア・シュリーデンの真意がどうであれ、私は彼女を裁かなければならない。それは理解しています。ですが、親の罪を子が背負う必要はないとも考えています」
「ですが、一国を滅ぼしているんですよ?」
「その通りです。だからこそ、彼女の真意を確かめたい。彼女自らの意思も含まれた出陣だったのか、それとも親の命令に従ったが故の出陣だったのか。それ如何によっては、罪の重さをこちらでしっかりと判断しなければならないでしょう」
……嘘はない、と思いたい。
とはいえ、この場でいきなり鑑定スキルを使うのはオルヴィス王に失礼だろう。
「構いませんよ、鑑定スキルを使っても」
「うっ!?」
「いえいえ、私の話を信じられないのは当然だと思いますから。ですが、鑑定スキルでなんでもお見通しのトウリ殿を相手に嘘をつく必要はないんですけどね」
「……仰る通りで」
そういえば、オルヴィス王にだけは俺の鑑定スキルについて伝えていたんだっけか。
これもウィンスター王の指示だから文句を言うつもりはないが、そういうことであれば――
「いいえ、それなら信じますよ」
「……よ、よろしいのですか?」
「はい。それに、あくまでも可能であれば、ですよね?」
「もちろんです。彼女の真意を知ることよりも、皆様が無事に帰ってくることの方が重要なことですからね」
そこまで話をして、俺たちはオルヴィス王の願いを聞き入れた。
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