第262話:勇者と剣聖と鑑定士 3

 宿場町に到着すると、そこにはライアンさんやヴィルさん、それにリコットさんが見送りに来てくれていた。


「戻って来て早々の出発って、急ぎ過ぎじゃないの?」

「そうしないといけなかったからな」

「こら、リコット。トウリ様たちの事情があるんだから、そんなことを言うもんじゃない」


 少しいじけた様子でそう口にしたリコットさんに対して、ヴィルさんが𠮟責しており、俺はそれをすぐに止めた。


「まあまあ、ヴィルさん。リコットさんも心配してくれているわけですし」

「リコットはもっと素直になるべきだろうな」

「へ、兵士長!」

「とはいえ、私もヴィルも、戻ってすぐの出発には心配をしております。どうか無事に戻ってきてください」

「もちろんです。俺にはまだ、ここでやるべきことが残っていますからね」


 三人ともしっかりと握手を交わした俺たちは転移魔法陣の上に移動すると、そのままシュリーデン国へ転移した。


 ◆◇◆◇


 ――……無事に到着したみたいだな。


「危なかったねー」


 そう思っていたものの、隣から森谷のそんな声が聞こえてきた。


「ん? 何が危なかったんだ?」

「ねえ、桃李君。あの転移魔法陣って、人数制限とかあった?」

「確か、五人までしか一度には……って、あれ?」


 そういえば、ここには俺と新と先生と森谷、従魔のサニーとハク。

 従魔を数に入れると、都合六人ということになっている。


「……もしかして、森谷は自力でなんとかした感じ?」

「そうだよ! もう、そういうことは最初に言っておいてもらわないと困るよ!」

「わ、悪い! 完全に忘れてたわ!」

「忘れてたって! ……いやまあ、僕がいきなり同行を申し出たから仕方ないけどさぁ」


 ま、マジで危なかったわ。

 最近はシュリーデン国へ向かうこともなかったし、転移の時は森谷にお願いして自由に移動していたから、人数制限のことも頭から抜けていたよ。


「トウリ・マヒロ様御一行様ですね? お話はライアン様から伺っております、こちらへどうぞ」


 俺たちの転移を待っていたのか、一人の騎士が声を掛けてきた。

 彼の案内で廊下を進んでいくと、戦争の後始末の時に何度か顔を合わせた人物が姿を見せた。


「お久しぶりでございます、トウリ様」

「お久しぶりです、ライドさん」


 ライドさんはディートリヒ様の右腕として働いていた人なんだが、戦争の後始末をしている際にこちらへの在中が決まった人だ。


「慣れない土地で大変じゃないですか?」

「最初こそ大変でしたが、慣れてしまえばこちらも良いところですよ」


 いつもニコニコしている人だが、その頭の中は何を考えているのかと驚いてしまいそうになるくらい、本当に色々なことを考えている人だ。

 一つのことを聞いては十の案を返したり、全く別の分野の問題をまとめて処理してしまえるくらいに頭の回転が速い。

 だからこそディートリヒ様も信頼してこちらに残しているんだろうし、ライドさんならシュリーデン国側から何か交渉を提案されたとしても下手を打たないと考えたのだろう。

 実際にライドさんが交渉をしているところに同席したこともあるが、言葉を詰まらせることもなく、念のためにと鑑定スキルで見ていた最適解を自ら導き出して答えていた。


「早速本題なのですが、シュリーデン国の国王がお会いしたいそうで、少々お時間をいただけませんでしょうか?」

「国王が?」


 俺たちは顔を見合わせたが、考えてみれば俺たちはシュリーデン国の元国王の一人娘と戦いに行くわけで、その線で何か話があると考えるのは自然かもしれない。


「わかりました」

「ありがとうございます。ここからは私がご案内いたしますね」


 案内を引き継いでくれたライドさんを先頭に、俺たちはシュリーデン城内を進んでいく。

 戦争当時は結構ボロボロになっていたはずの廊下の壁も、今では立派に修復されている。

 そんな感想を抱いていると、どうやら目的地に到着したようだ。


「それでは、こちらへどうぞ」


 ライドさん自らが開けてくれた扉から、俺たちは一つの部屋に入っていった。

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