第261話:勇者と剣聖と鑑定士 2

 森谷が部屋を訪れてからしばらくして、俺たちはアリーシャの屋敷に集まっていた。

 アリーシャからはとても心配されてしまったが、俺たちは予定を変えることはしなかった。


「本当にお気をつけくださいね、皆さん」

「大丈夫だよ、アリーシャ」

「あぁ。無茶をするつもりはないからな」

「二人が無茶をしそうになったら、私が止めますからご安心ください」

「ロードグル国へ行くこと自体が無茶なんだけどねー」

「ユリアちゃん、言い過ぎだよ」


 うーん、今回に限って言えば、ユリアの言葉の方が正しいのかもしれない。

 今を楽しみたい、ということであればわざわざロードグル国まで行く必要はないのだから。


「まあ、戦争になったら嫌でも巻き込まれるだろうしな。それならいっそのこと、こっちから仕掛けた方が楽ってことだよ」

「それは、そうだと思いますけど……」


 全く、本当に心配性だなぁ、アリーシャは。


「何かあればメールバードを飛ばすし、危なくなったらこっちには森谷もいるから安心しろよ」

「あれ? 僕ってそんなに頼られちゃう感じ?」

「そりゃそうだろう。神級職のレベル100越えなんだからな」


 魔力の数値だけを見れば俺たちとは比べものにならない化け物だし、転移魔法も使えるからな。

 今はロードグル国を実際に森谷が見たことないから使えないけど、こちらへ戻るということであればすぐに転移することも可能だ。

 ……だが、それはマリアも転移で逃げられるということにもつながるのだが、その点はそこまで問題にならないと森谷は言った。


「なあ、森谷。本当にマリアはすぐに転移できないと思うか?」

「思うねー。転移魔法ってさ、無駄に魔力を消費するんだよねー。それだけの魔力を個人が持っているなら話は別だけど、そうでないなら難しいと思うよー」

「そっか。……ちなみに、どれぐらいの魔力があったら使えるんだ?」


 目安がわかれば、マリアを鑑定して確認することができるからな。


「そうだなぁ……転移する距離にもよるけど、4000から5000くらいじゃないかな」

「……え? めっちゃ使うじゃん、魔力」

「そうだよー。まあ、僕の場合はちょっと特別だから魔力消費が少なく済むんだけどねー。魔力消費半減のスキルもあるし」


 さ、さすがは魔導師【神魔】だな。ってか、その特別が気になるんだけど。


「桃李君の鑑定スキルだって異常だろ? それと似たようなものだよー」


 そして、そう言われてしまうと俺からは何も言えなくなってしまう。

 俺だって自分の鑑定スキルが異常なことくらい理解しているからな。


「もしもマリアって子が魔力3000以上だったとしても、転移できる距離はそこまで遠くにならないはずさ。まあ、逃げるための転移魔法陣を事前に用意していたら話は別だけどね」

「おいおい、それって……」

「でもまあ、そこは桃李君の鑑定スキルを使えば看破できるし、そもそもマリアを捕まえるにしろ倒すにしろ、鑑定スキルを使えばそれこそ問題ないんじゃないかな?」


 ……ぐうの音も出ねぇわ。


「ただまあ、桃李君が別行動することになった時にマリアやコウヤ君だっけ? 彼が現れたら危ないし、僕はその保険って感じでついていくよ」

「……お前、この場であえて念を押す必要あったか?」

「いやー、あまり納得してない感じだったからさー」

「納得してるわ! ってか、そのためにさっき来たんだろうが!」

「さっき? トウリさんとタイキ様で何かお話をされていたんですか?」

「あははー! なんでもないよー!」


 もう納得しているし、ここでそう言われたら納得していなくても連れていくしかないだろうよ。


「……はぁ。とりあえず、俺たちはそろそろ行くか」

「そうだな。一度宿場町へ向かって、そこからか」

「僕はまだシュリーデン国に行ったことがないから、そうなるねー」

「よろしくお願いします、森谷さん」

「皆さん、無事に帰ってきてくださいね」


 こうして俺たち四人と二匹はアリーシャたちに見送られながら、屋敷をあとにした。

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