第264話:勇者と剣聖と鑑定士 5

「それでは、失礼いたしました」

「こちらからお呼び立てしたのです、お気になさらず」


 俺たちは断りを入れると、オルヴィス王のそんな返事を聞いてから部屋を出た。


「本当によかったのか、真広?」


 そう疑問を投げ掛けてきたのは新である。


「できるできないは置いておくとして、やりもせずに断るのは違うかなって思っただけさ」

「それはまあ、そうなんだが……」


 まあ、新が気にする気持ちもわからなくはない。

 何せ相手は新を操っていた張本人なわけだからな。

 お願いされなければ俺も特に気にすることなく叩き潰すつもりだったが、現状は国と国のしがらみなんかも関わってくる。

 おそらく俺がノーと言えばそれで終わりだったのかもしれないが、マリアを捕らえることで得られる情報が、これからのシュリーデン国だけではなく、アデルリード国にも優位に働くのではないかと俺は読んでいる。


「巡り巡って俺たちにも良い方向に進んでくれるんじゃないかな」

「……なあ、問題はないか」

「先生はどう思ってますか?」

「え? 私?」


 え? って、先生も話聞いていたよな?


「はい。俺たちが生徒同士で戦ったのって、言ってみればマリアが原因なわけですよね? なので、先生の意見も聞いておこうかと」


 まあ、なんとなく先生の意見はわかっているんだけどな。


「私は問題ないわよ」

「あー、やっぱり?」

「やっぱりって、わかっていたの?」

「先生の性格からすると、なんとなくね」


 先生の場合、一番はクラスメイトが大事ってのは変わらないけど、それ以外では無駄な折衝などを好むとは思えない。

 なので、マリアが生徒同士で戦った原因だったとしても、殺してほしいとかのお願いでなければ受けても問題はないと考えていた。

 それに、依頼が真意を確かめてほしいということだったので、それこそ先生が知りたかったことでもあるだろうと思っていたのだ。


「全く。だったら聞く必要なかったんじゃないの?」

「まあ、一応ね」

「ねえねえ、桃李君。僕には聞かないのかい?」

「森谷に聞く必要ってあるか?」

「あー、酷いなぁー、それはー」


 いや、関わっていたのはこっちのクラスメイトなんですけどねぁ。


「それに、僕は反対なんだよねー」

「ん? そうなのか?」


 これは意外な答えだったので、とりあえず森谷の意見を聞いてみることにした。


「まあ、僕の場合は単純明快で、回避できる危機は可能な限り避けましょう、ってことだね」

「マリアの真意を聞くことが危機に繋がるってことか?」

「もしかしたら、だけどね。そもそも魔眼スキルって、結構貴重なんだよ? そんな相手に余裕を見せていたら、下手をすると足元をすくわれるかもしれないからね」


 確かに、魔眼スキルについて知らないことの方が多いか。

 でも、それなら――


「鑑定、魔眼スキルについて」

「だよねー。そうなるよねー」


 ……森谷の奴、もしかして俺に鑑定させるため言及したんじゃないのか?

 まあ、どちらにしても魔眼スキルについて知っておいて損はないか。


「何々? ……ふむ、相手の心の弱くなった部分を狙い攻撃するスキル。魔眼にも種類があり要注意。……ん? これってもしかして」

「そうだねー。マリアの魔眼を鑑定しないといけないねー」

「……森谷お前、最初からわかっていただろう!」

「そうだけどさー、魔眼がどんなものかって知っておいた方がいいだろうー?」


 それはそうだが、鑑定の無駄使いみたいになっちゃったじゃないか!


「でもでも、魔眼の効果には種類があるんだけど、発動条件は同じだから知っていて損はないだろう?」

「……本当だろうなぁ?」

「ここまできて嘘はつかないってー」


 ……まあ、それもそうか。

 俺としても森谷のことはすでに信頼しているし、大事な従魔まで譲ってもらっているわけだしな。


「……わかったよ。それじゃあ、ロードグル国に入ったタイミングでマリアの魔眼について詳しく鑑定を入れてみるか」

「それがいいと思うよー」


 こうしてアドバイスをくれているわけだしな。


「それにしても……本当によかったんですか――ライドさん?」


 俺は城を出るタイミングで、後ろから歩いていたライドさんに声を掛けた。


「もちろんです。今回の件、言ってみればトウリ様たちにシュリーデン国の尻拭いをしてもらうようなものですから、誰かが同行しなければ示しがつきません」

「でも、俺たちは勝手に行って、勝手にクラスメイトを助けようとしているだけですよ?」

「それでもです。陛下のお願いも叶うかもしれませんしね」

「そもそも、ライドさんはアデルリード国の人ですよね?」


 ディートリヒ様の右腕と言われるほどの人材だが、危険を冒してまでロードグル国へ向かう必要はあまり感じられない。

 それでも同行すると言ってくれているのは、ウィンスター王やディートリヒ様の命令なのか、はたまた別の何かなのか。


「確かに私はアデルリード国の人間ですが、今はシュリーデン国の相談役です。それに、いずれは私もこの国を離れますし、一時でも離れられる今回の機会はありがたいのですよ」

「……まあ、そういうことにしておきます」

「ありがとうございます、トウリ様」


 こうして俺たちはライドさんを加えて、シュリーデン城をあとにした。

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