第252話:温泉とおもてなしと騒動と 49

 外壁の外で鳴り響いていた戦闘音にグランザウォールの領民は何事かと話していた。

 そこへアリーシャが姿を現して問題は解決したと伝えると、全員が何事もなかったかのように日常へと戻っていった。

 その姿を見た赤城は茶化すようにピュ~と口笛を吹いている。

 しかし、不思議と嫌な感じはなく、赤城なりの称賛なのだとすぐに理解できた。

 ……こいつ、こんな性格だったんだな。


「ちょっと~、真広~? な~に見ているのかしら~?」

「赤城ってこんな性格だったんだなーって驚いていたところだ」

「こんな性格って、どんな性格かしら~?」

「恥ずかしがり屋の照れ屋?」

「……ちょ~っと一発ぶん殴ってもいいかしら~?」

「なんでだよ! 絶対にダメだろ!」

「あはは! 冗談に決まってるでしょ~?」


 そんなもん一発アウトだからな! お陀仏だからな!

 そう口にしながらけらけらと笑っている赤城を見ていると、すでにこの場に馴染んでしまったかのようだ。

 アリーシャも特に気にする様子を見せていないのだが、唯一気にしている人物がいた。


「……ねえ、そこのイケメンさ~ん? ずーっと私のことを睨んでいるけど、どうしたのかしら~?」

「……ふん!」


 ヴィルさんだ。

 どうやらアリーシャに殺気を向けたことが相当気に障ったらしい。

 まあ、自分が仕える主に殺気が向けられたのだから当然なのだが、その主が許しているのに部下が怒りを露わにするのはどうなのだろうか。

 アリーシャもやや呆れた様子でヴィルさんを見ており、横にいたライアンさんが申し訳なさそうな表情を浮かべている。

 ……これはあとで大目玉だな、ヴィルさんは。


「ここが私の屋敷です」

「へぇ~。まあまあの屋敷じゃないの~?」

「アカギさんはもっと大きな屋敷を与えられていたのですか?」

「まっさか~。城の中の一部屋を割り当てられていただけよ~」


 肩を竦めながら我が物顔で敷地内に入っていく赤城を見て再び声を掛けようとしたヴィルさんだったが、その耳をライアンさんがグイっと引っ張った。


「痛あっ!?」

「お前は少し頭を冷やせ。アリーシャ様、私はこいつを連れて一度兵舎へ戻ります」

「よろしくお願いします、ライアンさん」

「ちょっと、兵士長! それではアリーシャ様の護衛はどうなさるのですか!」

「護衛ならハルカ様たちがいるではないか。では失礼いたします」

「わ、わかりました! わかりましたから、手だけは離してくれませんか、兵士長!?」


 そのまま耳を掴まれたまま屋敷の前から去っていった二人を見送り、俺たちも屋敷に入っていく。


「――あれ? 早かったね、おかえり」

「……えっ?」


 出迎えてくれたグウェインがそう口にすると、何故か赤城が驚きの声を漏らした。

 その表情はなんというか……うん、乙女の表情になっている気がする。


「あれ? そちらの人は?」

「あの、えっと、わ、私は、赤城笑奈……です」

「アカギ、エナ……あぁっ! えっ? でも、ここにいるってことは……」

「な、仲直りしました! これからよろしくお願いします!」

「「「「「「…………ええぇぇぇぇ~?」」」」」」


 先ほどまでとの変わりように、俺たちは驚きと共に呆れ声を漏らしてしまう。

 そのことに赤城は全く気づいておらず、完全に思考が全てグウェインに持っていかれているみたいだ。


「そっか! 仲直りできたのなら、これから何か話し合いかい? お茶を用意するから待っていてね。姉さん、準備するからアカギさんを案内してあげて」

「よ、よろしくお願いします、お姉さん!」

「えぇっ!? わ、私はいつからあなたのお姉さんになったんですか!!」

「今です! さあ、行きましょう!」

「あの、ちょっと、助けてください、トウリさん、皆さん!」


 腕を掴まれてキラキラした笑顔を向けられたアリーシャが助けを求めてきたが……俺には無理だ。

 そして、全員が黙っているということは誰にも助けられないということだろう。

 ……すまんな、アリーシャよ。

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