第251話:温泉とおもてなしと騒動と 48
念のためにアリーシャにも防御用魔導具は渡している。
しかし、だからといってそんな簡単に敵か味方かもわからない相手の前に出ていくのは危険だと思う。
それは赤城が俺たちに敵対していないとわかったとしても、アリーシャたちと敵対していないとは限らないからだ。
防御用魔導具の効果は先ほどの戦闘で証明されているが、それでも地面を削るという対抗策を講じてきた赤城である。絶対大丈夫とは言えなかった。
「アカギさん。私は、あなたを受け入れる準備ができています」
「なんだい、あんた? 人殺しを受け入れるってのかい? お人よしにも程があるんじゃないの~?」
「ただのお人よしじゃないですよ? 私にだって打算はありますからね」
「……へぇ~? あんた、面白い性格してるじゃないの。私を利用しようっていうのかい?」
僅かだが、赤城から殺気が漏れる。
ヴィルは今にも声をあげそうだったが、それをライアンさんが右手を上げて静止している。
とはいえライアンさんもすぐにでも飛び出せる態勢を取っており、何がどう転ぶのかわからない状況だ。
ここで鑑定スキルを使えればいいのだが、重たい空気に気圧されて言葉を発することができないでいる。
……ここは、アリーシャを信じるべきか?
「マリア王女が支配しているロードグル国。そこの情報を頂きたい」
「私がそれを与えるとでも思っているのかしら~」
「それは……わかりません」
「……なんだって?」
「私はあくまでもお願いをしている立場ですから。アカギさんが教えないと言えば、それは仕方がないことだと思っております」
「なら、私を受け入れるって話はなしでいいんだね~?」
「いいえ、違います。それとは別で、アカギさんを受け入れるつもりではいますよ」
「……あんた、何を言っているのかわかっているのかい?」
「もちろんです。打算ですから、無理であれば仕方がないのではありませんか?」
俺から見ても呆れてしまうのだから、赤城からしたらあり得ないと思えてならないだろう。
事実、口を開けたまま固まっている彼女の姿なんて、日本にいた頃にも一度だって見たことがない。
……いや、俺が視線を向けていなかっただけかもしれないけど。
「信じられませんか?」
「そりゃそうでしょうよ~。人殺しを何の見返りもなく受け入れるなんてね~」
「……ねえ、アカギさん? 先ほどから人殺しという言葉を使っておりますが、それの何が悪いというのですか?」
そして、アリーシャの発言を受けて今度は赤城だけではなく、俺たち異世界人全員が驚愕してしまう。
しかし、続きの言葉を聞いてなるほどと納得してしまった。
「意味もなく人を殺す行為、これはダメです。しかし、戦争という場面であれば、自らの命を守るためであれば、人殺しは正当防衛になるのではありませんか?」
「……どうだろうね~」
「もしもアデルリード国が戦争に巻き込まれ、私たちも戦わなければならないとなれば、私は迷うことなく敵兵を殺すでしょう。戦争とはそういうものではありませんか?」
「……」
「アカギさんはアデルリード国に入ってから、誰かを一人でも意味もなく殺したのですか?」
「……」
ここに至り、赤城は口を噤んでしまう。
それだけでもう、赤城が自ら人を殺したわけではなく、自分が生き残るために仕方なく殺したのだということがわかってしまった。
もしかすると、俺たちは赤城笑奈という人物を知っていたせいで間違った先入観を持っていたのかもしれない。
本当の赤城笑奈は、一人で悩み考えて、この世界で生き残るために必死だったのかもな。
そう考えると……赤城はずっと一人で、俺たちよりも苦しい時間を過ごしてきたのかもしれない。
「ここでは誰もあなたを責めることはしませんし、一方的に利用することもしません。ただ、協力してくれるのであればありがたい、程度ですよ」
アリーシャは空気を和ませるためか、最後の方は少し声音を明るくし、冗談めかして口にしていた。
「……はは。あんたは本当に、面白い性格をしているねぇ。わかった、邪魔してやるよ。情報もまあ……少しくらいならね」
赤城は少しだけ恥ずかしそうに、視線を逸らせながらそう口にした。
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