第248話:温泉とおもてなしと騒動と 45

「させないわよ!」

「させるか!」


 赤城のターゲットが俺に向いたタイミングで、ユリアと新が戻ってきた。

 渾身の一撃が、斬撃が、赤城目掛けて放たれたのだが、彼女は振り向きもせずに体を軽く捻るだけで二人の攻撃を回避してしまう。


「うっそ!」

「くそっ!」

「邪魔なのよ~!」


 動きを止めないまま反撃してきた赤城は、防御用魔導具に対処するために直接ではなく別の場所に大剣を振り抜いた。


「えぇっ!?」

「こいつ――地面を!!」


 大剣が足元を抉り取り、勢いそのままに二人を吹き飛ばしてしまった。

 直接攻撃であれば発動する防御用魔導具も、地面への攻撃では発動されない。

 まさか、あの一瞬の攻防から防御用魔導具の弱点を把握して対処までしてくるとは、思いもしなかった。


「アースバイト!」

「サンダースパイク!」


 円と先生が赤城の動きを止めようと魔法を放つが、命中する前にその場から彼女の姿は消えてしまう。


「――ばあっ!」

「うおっ⁉」


 気づけば赤城の顔が目の前に現れ、楽しそうな笑みを浮かべていた。


「それじゃあ――死んでもらおうかな~!」

「誰が死ぬかよ!」


 ――バチバチッ!


 伸ばされた手が俺の顔を掴もうとしたものの、防御用魔導具が問題なく発動して赤城の右手を遮ってくれる。

 しかし赤城は構うことなく右手を突き出してきており、全く引こうとしない。


「おい、赤城! このままだと腕がぶっ飛ぶぞ!」

「あら~? 私のことを心配してくれるの~? だったらこの邪魔な奴を消してくれないかしら~?」

「消したら俺を殺さないか?」

「あはは~? それはどうかな~?」


 いや、その返事は絶対に殺すだろうが!


「お前はどうしてマリア側についているんだ?」

「あら、私とお話がしたいの~?」

「ふざけるんじゃない! どうしてかって聞いているんだよ!」


 俺は声を荒げて赤城に問い掛けるが、その表情は笑みを浮かべたままで、右手も突き出され続けている。


「おい! マジで右腕がぶっ飛ぶって言っているだろうが!」

「真広は優しいのね~」

「真面目に聞けよ!」

「真広!」

「桃李!」


 時間が経ち新とユリアが戻ってくると、赤城を挟み撃ちしながら攻撃を仕掛けていく。

 また大剣で薙ぎ払うのかと思ったが、今回は大きく飛び退いて回避するだけで、反撃はしてこない。

 不思議に思ったものの、俺はその理由に気づいてしまった。


「……赤城さん! あなた、その腕!」

「あぁん? あぁ~……こりゃダメだねぇ~」


 先生も気づいたのか、悲鳴にも似た声で赤城に声を掛ける。

 しかし彼女は特に気にするでもなく、血だらけになった右腕を軽く持ち上げながら、小さく苦笑した。

 まるで、こうなることが当然だと言わんばかりの、普段と変わらない表情だ。


「だから止めろって言ったんだ!」

「だって~。真広、私のことを信じてなかったじゃないのよ~」

「信じたら、攻撃を止めたのか?」

「それは~、どうかな~?」


 こいつ、今の状況を楽しんでいるんじゃないのか?

 喧嘩早いとは思っていたが、まさか異世界に来てまで性格が変わらないとは。

 ……いや、むしろ悪化してないか?


「こいつの話を聞くなんて意味ないわよ、桃李!」

「同感だな。先生には悪いが、俺たちはここで赤城を倒す」

「ダメよ、二人とも! 赤城さんも目を覚ましなさい!」

「そうだよ! 笑奈さん、戻ってきて!」

「あ~らら~? そちらさんは、意見が真っ二つじゃないの~?」


 左手一本で大剣を持ち上げると、赤城は一歩ずつこちらへ近づいてくる。

 どうやら最後までやる気のようだ。

 しかし、一つだけ気になったことがある。

 俺はそのことを確かめるため、こっそりと赤城を無力化する方法を改めて鑑定してみた。


「……はは、やっぱりか」


 どうやら間違っていたのは、俺の方だったみたいだな。

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