第249話:温泉とおもてなしと騒動と 46

「あぁー、もう! こんなんもう止めだ!」


 俺が両手を上げながらそう口にすると、全員の視線がこちらに向いた。


「何を言っているのよ、桃李君!」

「そうよ、真広君!」


 驚きの声をあげたのは円と先生だ。


「一気に片付けるわよ、新!」

「任せておけ」


 そしてやる気満々のユリアと新。


「いやいや、止めるのはお前たちだから――ユリア、新」

「「……こっちなのか!?」」

「……何を考えているのかな~、真広~?」


 さらに驚いた二人だったが、それ以上に驚き、困惑と警戒心を露わにしているのが赤城である。

 それも当然といえば当然なのだが、俺としては赤城と戦わなくて済む可能性があるとわかったのだからそちらを選択した方がいいに決まっている。

 何せこいつは――手加減をしてあれだけの強さを示したんだからな。


「お前、最初から俺たちに勝つつもりなんてなかっただろう」

「……何を言っているのかな~? あの変な防御がなかったら、御剣も近藤も死んでたんじゃないかしら~?」

「二人に関しては信じてたんだろう?」

「信じる? いったい何をかな~?」

「二人なら自分の攻撃を防ぐ、もしくは当たっても耐えてくれるってことをだよ」


 俺の言葉を受けて、赤城の表情が一際鋭いものになる。

 どうしてわかるのか、そんなところで思考を巡らせているのだろう。


「だが、二人は信じられても先生を信じることはできなかった。何せ、先生は上級職でなおかつ魔導師職だから耐久力も低いと読んだんだろう? だから大剣じゃなくて拳で攻撃を仕掛けたんだ」

「それは全部、真広の推測でしょ~?」

「それならどうして拳で攻撃を仕掛けたんだ? あのタイミングなら、問題なく大剣で攻撃できただろう?」

「……」

「無言は肯定と捉えるがいいか? それにお前は先生だけじゃなく、俺にも拳で攻撃をしてきたな、あれはどうしてだ?」


 正確にはただ右手を伸ばしてきただけだったけどな。

 だが、新に先生と防御用魔導具を二度も見た赤城にとって、俺も同じ防御方法を取ってくると予想はできたはずだ。

 とはいえ、赤城は俺のことを単なる初級職だと思っているだろう。

 だからこそ大剣ではなく、拳でもなく、ただ手を伸ばして顔を掴もうとしたのだ。

 防御が発動すれば受け止められるし、発動しなくても顔を握り潰そうとするだけなら赤城のさじ加減でどうとでもなる。

 ただ殺しに来たのであれば、誰に対しても大剣で薙ぎ払えばいいだけの話なのだ。


「そんなもの、私の勝手でしょ~?」

「勝手だけど、事実は事実だ」

「それなら、今からでも真広を殺してあげようか~?」

「……やれるものなら、やってみろよ。さっきの防御も発動しないようにしてやるから」


 そう口にした俺は、防御用魔導具を先生目掛けて投げ渡した。


「ちょっと! 真広君!?」

「……本気で言っているのかな~、真広~?」

「当り前だろう。お前は絶対に俺を斬れないよ、赤城」


 俺の言葉に大剣を握る赤城の手にギュッと力が入る。

 ……本当に大丈夫なんだようなぁ、鑑定スキルよう。


「なんでそんなに自信満々なのかはわからないけど、その自信が仇になるってことを教えてあげるわよ、真広~!」


 声を荒らげた直後、地面が陥没するほどの脚力で飛び込んできた赤城が左手で大剣を振り上げた。


「桃李君!」

「真広君!」

「桃李!」

「真広!」


 四人の声が聞こえてくる中で、俺はただ正面から突っ込んで来る赤城だけを見つめていた。

 怖くないわけではないが、俺は自分の鑑定スキルを信じると決めたのだ。

 ギラリと効果音が聞こえてきそうな赤城の視線を一身に浴びながら、彼女は大剣を振り下ろした。

 マジで頼むぞ――赤城!!


「……はあぁぁ~。全く、マジで何もないとか、あり得ないんだけど~?」


 ……あっぶねええええぇぇっ!! 首の皮一枚切れてるじゃないかよおおおおぉぉっ!?

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