第247話:温泉とおもてなしと騒動と 44
体をくの字に曲げながら後方へ吹き飛ばされた赤城。
今のユリアの筋力は1000を超えているので魔の森の魔獣でも、個体によっては一撃で仕留めることができる威力を持っている。
だが――赤城の耐久力はユリアの筋力を遥かに上回っていた。
「……おぉー、なかなか痛いじゃないか~」
「……うっそ、効いてないの?」
「何を言ってるのよ~? 痛いって言ってるじゃないの~?」
「あれを痛いだけで終わらせられるとは、さすがは赤城といったところか」
「あれ~? どうして驚かないのかな~? 今までの奴らは全くダメージがないことに驚いてたんだけど~?」
それはそうだろう。
どれだけ優れた鑑定士がいたとしても、レベル75の赤城の人物鑑定に成功するとは思えない。
そして、大半の人間は自分の方が強いと思って攻撃を仕掛けるが、ダメージがないとわかれば驚きと共に隙が生じてしまい、そこを突いて赤城の強烈な一撃が飛んでくる。
赤城の筋力で振り抜かれた大剣であれば、相当頑丈な盾や鎧でなければ真っ二つになってしまうことだろう。
「うーん……あんたたち、なーんかおかしいのよね~?」
しかし、赤城も俺たちの行動のおかしな部分に気づいたようだ。
それも当然で、赤城がアデルリード国に入ったことに関してはシュリーデン国が調査をしていてもおかしくはない。
だが、赤城自身の細かな行動まで把握されている今の状況は明らかに違和感を覚えるものだった。
「御剣に~、近藤でしょ~? あっちにいるのが先生と~……あれ~? 八千代もいるじゃ~ん! おーい、やっちよー!」
こ、この状況で敵側の円に手を振るとか、マジで余裕なんだな、こいつは。
「あっれ~? な~んで手を振り返してくれないのかな~?」
「そんなもん、あんたが私たちの敵だからに決まっているでしょうが!」
「敵~? ……あぁ~、確かにそうだったわね~」
「赤城、ふざけているのか?」
「あっはは~! そんなわけないじゃ~ん! だってこれ~――殺し合いだよ~?」
赤城がそう告げると、周囲の空気が一気に重くなったのではないかと錯覚するほどの息苦しさを感じてしまう。
「あはっ! いいねぇ、その表情さぁ~! ぶっ飛ばすのが楽しみになってきたよ~!」
凶悪な笑みを浮かべると、一直線に突っ込んできた。
まるで突風のように突き抜けてきた赤城を前に、新もユリアも反応することができなかった。
しかし、赤城が二人を攻撃することはなく、間を抜けて後方の俺たち目掛けて突っ込んできたのだ。
「ウインドリバース!」
「アースウォール!」
先生が突風を引き起こして赤城の動きを阻害し、その間に円が土壁を大量に形成していく。
それでも僅かに動きが鈍った程度で、赤城が一歩踏み込むと地面が陥没してさらに前に出てきた。
土壁が轟音を響かせて砕け散り、音の中心を赤城が突き進んでくる。
「まずはあんたからぶっ飛ばしてやるよ――せーんせーい!」
「赤城さん!」
後ろに引いた拳には膨大な魔力が渦を巻いている。
魔力を伴った強烈な一撃で、一気に先生を仕留めるつもりだ。
「先生! 魔力の半分を魔導具に注ぎ込んでください!」
「わかったわ!」
俺がそう指示を飛ばすと、先生は魔法を中断して防御用魔導具に魔力を注ぎこんでいく。
そこへ赤城の拳が突き出されると、耳をつんざくような轟音と共に衝撃波が周囲へと広がった。
砂煙が舞い上がると、ゴウッ! という音を伴って肌を通り過ぎると小さな切り傷を作っていく。
鑑定結果ではこれで防げるはずなんだが、本当に先生は大丈夫なんだろうか。
「……あっれ~? ま~たこれかよ~?」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ!」
防御膜を境にして、先生と赤城が見つめ合っている。
「……あっれ~? な~んであんたがここにいるのかな~?」
赤城の野郎、どうやら俺の声が聞こえていたみたいだ。
先生から視線を外してこちらに鋭い視線を向けてきた。
「……はっは~ん? あんたが原因ねぇ、真広~?」
「……はは、それはどうだろうな?」
さーて、次からは本格的に赤城が俺を狙ってくるターンだな!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます