第245話:温泉とおもてなしと騒動と 42

 ――それからしばらくして、赤城が動いた。

 ゆっくりとした足取りでグランザウォールを目指していた赤城が、一日で今までの倍以上の距離を進んできたのだ。


「アリーシャ! 赤城が動いた!」

「それは本当ですか、トウリさん!」


 俺は真っ先にアリーシャへそのことを伝え、グウェインは先生や円たちの屋敷へと走っていく。

 しばらくして戻ってきたグウェインは、異世界人組を連れてアリーシャの屋敷に戻ってきた。


「真広君! 赤城さんはどうしているの?」

「昨日一日で……いや、厳密には昨日の夜だけで、いつもの倍近い距離を移動してきたんだ」

「夜の間だけで倍の距離をだと?」

「馬か何かってことかな?」

「単純に走ってきたんじゃないの? レベルも高いみたいだし」


 まあ、正直なところどうやって距離を稼いだかは問題じゃない。

 一番の問題は、あとどれくらいでグランザウォールに辿り着いてしまうかだ。


「鑑定によると、一番確率の高いのは二日後。その次が三日後だな」

「なんで鑑定結果にバラつきがあるのよ?」

「そこは赤城の行動次第だからじゃないか? 相手に主導権がある鑑定に関しては、こうして確率でしか出てこないんだよ」

「ということは、他にも鑑定結果が出ているということか?」

「いや、今回に関しては二択だな」


 明日や四日以上あととかまであると、警戒のしようがないからな。

 とはいえ、鑑定では最低でも二日の猶予がある。その期間を利用してしっかりと赤城対策を講じなければならない。


「……まあ、一番の安全対策は陛下たちがすでにここにいないってことだな」

「そうですね。あと三日早ければ、陛下たちが滞在中の襲撃になるところでしたから」


 陛下たちは昨日、温泉街から王都へ転移で戻っていった。

 本当ならばもっといたいと言い続けていたのだが、さすがに城を長く空け過ぎていたようで、わざわざ王都から馬車でグランザウォールまで使者が訪れたのだ。

 仕事が山のように溜まっているのだとか聞こえてきたが……そこはまあ、自業自得ということで頑張ってもらいたい。

 去り際に鑑定スキルでなんとか! みたいな言葉も聞こえていたのだが、完全に無視してしまった。

 ……これで不敬罪になんて、ならないよな?


「真広の魔導具はどうなっているんだ? 防御用の魔導具は見ているが、攻撃用は見ていないぞ?」

「なんだ、新。気になるのか?」

「まあな。お前はまだ弱い。正直、赤城と真正面からぶつかったらひとたまりもないだろうからな」

「……は、はっきり言うなぁ」

「事実だからな」


 ……仰る通りです。


「まあ、いくつかは作ってあるよ。さすがに断絶の刃だけじゃあ魔力が一気になくなって終わりだからな」


 それに、俺が作った防御用魔導具も全て使うには魔力が必要になってくる。

 強力な攻撃でも魔力があれば防げるが、なくなればただのガラクタに成り下がるのだ。

 強力な防御用魔導具を作ろうとすればそうするしかなかったので仕方ないとわかっているものの、もう少しどうにかできなかったのかと考えなくもない。

 鑑定スキルがそうだと鑑定したのなら間違いはないはずなんだけどね。


「そうか。それならまあ、自衛はできるだろうな」

「倒せるな、とかじゃないんだな」

「無理だろう」

「無理だよね」

「無理よー」

「無理よねぇ」

「……ぜ、全員で言うことないんじゃないかなぁ~?」


 新たちから全否定を食らってしまい、俺はなんだか情けなくなってきたよ。


「桃李って、意外と扱いが雑なんだな」

「真広君、頑張って!」

「……うぅぅ、応援してくれるのは屋嘉さんだけだよぉ~」


 俺、頑張るよ。赤城になんか負けないんだからな!


「一応、ライアンさんたちにはグランザウォールの守りに徹するよう伝えておきます」

「……そうだな、それがいい。赤城がどういう行動に出るかも含めて、もう一度鑑定をしておくよ」


 こうして俺たちは、赤城襲来に向けて準備を刻一刻と進めていく。


 そして――ついにその日がやってきた。

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