第238話:温泉とおもてなしと騒動と 36

「それは本当なの、真広君!」


 真っ先に声をあげたのは先生だ。


「はい。どうやらガレンラリア国との国境付近の街にいるみたいだな」

「す、すぐに向かわないと!」

「ならん!」


 先生の言葉に反論を口にしたのは、まさかの陛下だった。


「ど、どうしてですか! 私の生徒がそこにいるんですよ!」

「安心せい。何も助けるなと言っているわけではない」

「……それでは、どういうことですか?」


 陛下を睨みつけながら口にしている先生。

 一国の王様に対してすごい態度をしているなと驚いてしまうが、それも先生が生徒たちを助けたいという思いが成せるパワーのようなものなんだろう。


「そのアカギという者は、おそらく王都か魔の森に足を運ぶことになるだろう」

「根拠は何ですか?」

「シュリーデン国を落としたのは紛れもなくアデルリード国じゃ。ならば、その王都を調べるのは当然であろうし、戦力が増加した理由にも心当たりがあるのではないか?」

「戦力……なるほど、円とユリアですね?」

「えっ?」

「わ、私たち?」


 俺の言葉に驚いた二人だったが、陛下は大きく頷いていた。


「トウリやハルカのことをどう思っていたのかはわからんが、マドカとユリアは特級職じゃ。ゴーゼフたちももしかすると生き残るかも、という思いを持っていたはずじゃ」

「追放したと思った特級職の二人が生き残り、アデルリード国に手を貸していると思えば、魔の森に何かあったんじゃないかと思うのは当然ってわけだ」

「……でも、それならどこに向かってくるかはわからないじゃないですか」

「いや、そうでもないよ」

「「……えっ?」」


 俺の言葉に先生と陛下が同時に驚きの声を漏らした。


「あー、言い忘れていたけど、赤城がどこに向かっているのかもわかってるんだよね」

「「…………そういうことは先に言いなさい!」」

「……ごめんなさい」


 めっちゃ怒られてしまった。

 だけど、話を勝手に進めてしまったのは先生なので大目に見てほしいものだ。


「それなら真広君、赤城さんはどっちに向かっているの?」

「確かに。教えてもらえるか、トウリよ」

「はい。……えっと、こっちに向かっているみたいですね」


 そう、赤城は魔の森目掛けて真っすぐ向かってくるみたいだ。

 何かを確信しているのか、王都へ向かうつもりは全くないみたい。


「それに……えっ? これ、マジか?」

「どうしたの、真広君?」


 今回は魔力を大量に増加させてから鑑定を行ったからか、それとも鑑定スキルが仕事をして勝手に追加鑑定を行ったのか。

 ディスプレイ画面には赤城のステータスまで出てきていた。

 それが異常な数値を叩き出しており、思わず言葉に出てしまった。


「……赤城のレベルが、異常に高い。どうなっているんだ?」


 俺たちは魔の森でレベル上げをしてきた。そう、誰もが恐怖し避けていた魔の森の魔獣を相手にしてのレベル上げだ。

 それにもかかわらず、赤城のレベルは俺たちを凌駕している。それも、こちらの最高レベルである新をも上回っているのだ。


「……レベル、75」

「レ、レベル75だと!?」

「それは本当なの、真広君!」

「……はい。ロードグル国には魔の森みたいに魔獣のレベルが高い場所があるんですか?」


 俺の質問に陛下は首を横に振った。

 ならば、どうやってここまでのレベルに到達したのだろうか。

 そんな疑問が頭の中を埋め尽くす中、言い難そうにディートリヒ様が口を開いた。


「……おそらく、戦争の時に経験値を獲得したのでしょう」

「戦争で? でも、魔獣を倒したわけじゃないですよね?」

「実を言いますと……経験値は、魔獣からしか手に入るわけではないのです」

「……そうなんですか?」

「はい。……人を殺すと、その者が得ていた経験値の一部を獲得することができるのです」


 ……えっ? それ、マジなのか? だったら戦争をして勝利した国には、特級職に勝るとも劣らない実力者が大量に生まれてしまうんじゃないのか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る