第239話:温泉とおもてなしと騒動と 37

「ですが、それをするにはいくつかの条件がございます」

「……条件、ですか?」


 どうやら俺の危惧していたことを他の人も考えていたのか、続くディートリヒ様の言葉に反応したのは先生だった。


「はい。まずは大前提として、お互いに名乗りを行い、死合うことを合意の上で一騎打ちに勝利すること。不意打ちなどでは相手の経験値を得ることはできません」

「確かに、それができてしまうと犯罪者が恐ろしく強くなってしまいますからね」

「その通りです。あとは一騎打ちの前に相手が負傷しているような状況でも経験値は得られません」

「お互いが同意の上で、万全の状態でやり合った場合のみってことですか」


 そんな状況を、赤城は戦争中に何度も作り出していたってことか?


「……ちなみに、同意したように見せかけて一騎打ちの邪魔をする人がいたらどうなるんですか?」

「その場合は天罰が下ります」

「……てん、ばつ?」

「言葉通りだな」


 俺の問い掛けに、今度は騎士団長が口を開いた。


「いや、言葉通りと言われても」

「天から罰が降り注ぐ。まあ、雷だな」

「……同意を破った相手に雷が落ちるってことですか?」

「そういうことだ。同意を破った者、そして邪魔をした者の両方に雷が落ちて死ぬ。おかしな話だと思うかもしれんが、これは事実だ」

「ウィグル団長の言う通りです。研究者としてはどうにも信じられない現象ですが、実際にそうなってしまうのですよ」


 二人の様子からして、どうやら嘘をついているようには見えない。

 ここで鑑定を掛けてみてもいいのだが、雷っていえば天災みたいなもんだよな? そんなもんに鑑定を掛けて魔力枯渇なんて起こしたら、目も当てられん。

 それに、絶対に怒られるから目を覚ましたあとの方が恐ろしいし、止めておくか。


「ってことは、赤城は戦争中に誰彼構わず一騎打ちを仕掛けて同意され、全部に勝利を収めたってことなのか?」

「恐らくは。ですが、誰彼構わずというわけではないと思います」

「戦争の場合、指揮する部隊長クラスは一般兵と装備が違っていたりする。そういった相手に絞って一騎打ちを仕掛けていた可能性は高いだろう」

「私も同じ意見です。部隊長クラスの方々は総じてレベルも高いですから、得られる経験値も多くなりますしね」


 ……なるほどね。

 相手が部隊長クラスなら納得だわ。

 自分が優位だと思っている相手ほど、一騎打ちを受けないわけがない。

 勝てば経験値を得られるわけだし、多くの敵を蹴散らしてこちらに到達して一騎打ちを仕掛けてくるような相手なのだから、それなりの地位にいる者だと推察だってできる。


「要は、手柄欲しさに一騎打ちを受けてやられたバカが沢山いたってことですか」

「そうでしょうね」

「しかし……そのアカギとやら、俺はぜひとも戦ってみたいがな! がはは――」

「ダメです!」


 騎士団長が笑い声をあげた途端、先生が怒声を響かせた。


「赤城さんは私の大事な生徒です! 騎士団長といえども、戦わせるわけにはいきません!」

「……はは、申し訳ない」


 お、おぉぅ。脳筋の騎士団長を黙らせてしまったよ。さすがは先生だ。


「うむ、我もウィグルとの戦闘は賛成できんな」

「陛下まで!」

「トウリの話では、そのアカギという者のレベルは75なのだろう? ウィグルのスキルを使ったとしても、勝てるかどうかはわからないのではないか?」

「だからこそ面白い……あー、いや……う、うむ、そうですな! 陛下の言う通りですな!」


 先生のひと睨みで騎士団長が意見を変えちゃったよ。


「して、トウリよ。もしもアカギとやらと対峙した時、勝てる見込みはあるのか?」

「私が説得します!」

「ハルカよ、思考を止めるでない。お主がアカギを助けたいと思っていても、相手が同じとは限らんぞ?」

「赤城さんはそんな子じゃありません!」

「それはどうかな? どうだ、トウリよ」

「お、俺ですか? 俺に聞かれても……いや、待てよ?」


 そうだ、俺にはわかるじゃないか。

 すでにステータスはディスプレイ画面に出てきている。ならば、あるはずだ。

 新にもあった――状態異常の数々が。


「……ない」

「えっ? 何がないの、真広君?」

「……赤城のステータスに、状態異常のステータスがないんだ」

「……ど、どういうこと? それじゃあ赤城さんは?」

「自らの意思で行動している、ということじゃろうなぁ」


 陛下の言う通りだ。

 赤城は自らの意思で戦争に参加して、人を殺し、そしてこちらに乗り込んできたのだ。

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