第237話:温泉とおもてなしと騒動と 35

 あまりに遠くのものの鑑定は魔力を上げても失敗してしまう。

 どこにいるかもわからない赤城の鑑定となればリスクが高い気がしてしまうのだが、ディートリヒ様には俺に提案するだけの考えがあった。


「先ほどもお伝えしましたが、マリアはアデルリード国がシュリーデン国を落としたことを知っています。そして、その調査をエナ・アカギに託した可能性も高いのです」

「……だからさっきの話になるのか。もしも赤城がアデルリード国に潜入していれば、そこまで広い範囲の鑑定ではなくなる。だから、鑑定も成功する可能性が高いってことですね?」

「はい。こちらの密偵は実力者です。ですが、その活動範囲を今は元ロードグル国に限定しており、おそらくはその範囲外に移動したものと考えられます。王が変わった新たなシュリーデン国に潜入している可能性もありますが、そちらの密偵からもエナ・アカギの情報は得られませんでした」


 シュリーデン国にも密偵を配置していたんだな。

 まあ、なんでも他人から聞いて情報を得るよりも、こちらの手勢で調べる方が信頼度は高まるか。


「となれば、可能性の高い潜入先として名前が挙がるのが、アデルリード国になるのです」

「で、でも、もし赤城さんがアデルリード国にいなかったら、真広君はどうなるんですか?」

「魔力枯渇で倒れるだろうな。でもまあ、それくらいのリスクを冒す価値はあるよ」

「真広君! そんな当たり前みたいに言わないでちょうだい!」


 先生はそう言うけど、これは勝率の高い賭けだと思う。

 ディートリヒ様が説明した通り、シュリーデン国にいないのであれば、次に確率の高い場所はアデルリード国だろう。

 マリアが別の国をターゲットにしているのであれば話は変わってくるが、そういう動きがあれば密偵が情報を手に入れてくるはずだ。

 密偵がどれだけの実力を有しているのかはわからないが、ディートリヒ様が大手を振って信頼しているくらいの者たちなのだから、俺たちも信じていいと思う。


「まあまあ、先生。ここで俺が鑑定をして、赤城の場所がわかったら、助けてあげられるかもしれないんだよ?」

「そ、それは、そうだけど……」

「何もしないで生徒が助かるならいいけど、そうじゃない。だったらどこかで賭けに出るのもいいんじゃないかな」


 ……みたいな感じで説得を試みる。

 俺としては赤城を助ける義理などどこにもないのだが、先生には色々と助けてもらっているし、先生が生徒を助けたいと思うのであれば、手助けできるところはやってもいいかと思っている。

 相手が赤城じゃなければ、俺も本当にやる気を出せるんだけどなぁ。


「……本当に大丈夫なの、真広君?」

「大丈夫だよ。……まあ、赤城のためというか、先生のために頑張るけどね」

「……ごめんね。それと、ありがとう、真広君」


 先生が目に涙を溜めながらお礼を口にした。

 言葉にした通り、赤城のためではなく先生のためであれば、やる気も出るってもんだな。


「それじゃあとりあえずバナナを食べるか」


 俺は食べられる分だけバナナを食べて、一息ついてから赤城の居場所を鑑定した。


「鑑定、赤城笑奈の居場所」


 鑑定を発動した直後、俺の中から魔力が一気に流れ出ていく感覚に襲われた。

 力を抜くと膝から崩れ落ちそうになる感覚を覚えると、全身にギュッと力が入る。

 しかし、スキルの習得方法の時のように一瞬で意識を飛ばすことはないので、きっと鑑定は成功している……と思いたい。

 鑑定スキルが結果を出すまでいつもより長い時間を要していたのだが――ようやくディスプレイ画面に結果が表示された。


「……結果から伝えると――赤城はアデルリード国にいます」


 俺がそう口にすると、周囲がざわついた。

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