第210話:温泉とおもてなしと騒動と 11
同行者は決定したのだが、せっかくなので森谷のことも紹介することにした。
「あのー、陛下? せっかくなので森谷大樹のことを紹介したいと思うんですが……どうでしょうか?」
俺がそう口にすると、浮かれていただろう二人の動きがピタリと止まった。
あれ? こっちに来るのに転移で行くって、言ってなかったっけ?
「……タイキ・モリヤが、いるのか?」
「……で、ですが、マヒロ様たちの中で初見の方というのは……あ、いましたが、え?」
あー、まあ、そういう反応になるよな、うん。
「色々あって、今は子供の姿になっています」
「初めまして、アデルリード国の国王よ。僕が過去に勇者召喚で召喚された、森谷大樹だよ」
「「……えっ、マジですか?」」
おっと、二人の口調がぶっ壊れたな。
「まあ、驚くとは思いますが、マジです」
「いやー、さすがに骨のままだと禁忌魔法の代償のせいで身動きできなくてね。真広君たちに手伝ってもらって、必要な素材を集めてもらい、こうなったんだよ」
「「……必要なところを省き過ぎでは!?」」
この二人、息ピッタリだな。
とはいえ、本当のことなのだから信じてもらうしかないんだがなぁ。
「何か魔法でも使ってもらいますか?」
「魔法って……派手なやつがいいのかな?」
「それ、危険じゃないのか?」
「まあ……建物の一部は溶けてなくなるかも」
「「と、溶けるのか!? 信じるから止めてください!!」」
なんだか脅しみたいになってしまったが、きっと大丈夫だろう。
それに、森谷はいい奴だからな。
「そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ? 森谷のおかげでメールバードを作れるようになりましたし、他の魔導具もそうなんですから」
「……ほ、他の魔導具とな?」
「はい。……あれ、言ってませんでしたっけ?」
「「聞いてない!」」
あっれー? おかしいなぁ。
……もしかして、台所家電だから報告漏れてたかも?
「あー、料理用の魔導具です。俺たちがいた世界のものを再現したんですよ」
「ほほう! だからこそ、この味が出せるのだな!」
「そうなりますね」
屋嘉さんもシュリーデン国でデザートを作っていた頃は、火加減とかが一番大変だったって言ってたもんなぁ。
それに比べて家電魔導具は火力調整が自由自在! 食材を放り込んでチンするだけで料理が出来上がる、なんて昨日もあるから楽もし放題なのだ!
「料理人の方々が作り方や使い方を覚えたら、魔導具もお渡ししますよ?」
「「よろしく頼みます!」」
どうして陛下まで敬語なのよ!
まあ、それだけ屋嘉さんのクッキーが美味しかったってことで、良しとしようかな。
……っていうか、森谷の紹介はこれで終わりでいいのか? 碌に紹介ができていないんだが。
「そこまで心配するでないぞ、マヒロよ」
「え?」
「お主から話を聞いた時点で、我らはタイキ・モリヤのことを信頼しておるからな。……まあ、最初こそまさかの容姿に驚きこそしたがのう」
「その通りです。まさか幼子の姿で現れるとは思わないでしょう」
「それじゃあ、最初に入ってきた時は誰だと思っていたんですか?」
素朴な疑問を口にすると、何故か二人とも黙り込んでしまった。
「……もしかして、見えていなかったとか?」
「「……ははは」」
マジかよ! おもてなしの力、半端ないな!
「と、とにかく! タイキ・モリヤよ! これからマヒロのことをよろしく頼むぞ!」
「もちろんだよ。僕にもプラスだし、何より温泉が最高だからね! 陛下たちもきっと驚くよ~?」
「……そ、そんなに良いのか? そのオンセンというものは?」
「さいっこうだからね! 一度入ると病みつきになるかもね!」
森谷がものすごく温泉のハードルを上げている気がする。
まあ、それくらいハードルが上がっても、その期待を軽々と超えていくのが温泉なんだけどな!
「うむむ、そうなると、城にも欲しくなるのう」
「あっ、それは無理です。さすがに温泉は魔導具じゃないので献上できません」
「仕方がありませんね、陛下」
――しかし、結局は陛下が駄々をこねることになるのだが……それはもう少し先の話である。
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