第211話:温泉とおもてなしと騒動と 12

 陛下への謁見を終えた俺たちは、料理人の選定が終わるまでの間で訓練場に足を運んだ。

 これはユリアと新がどうしてもというのでやってきた。

 ……正直、俺はあまり気が進まなかった。何故なら――


「来たか、少年よ! さあ、俺と模擬戦をするぞ!」


 ……ほらなぁ。絶対に騎士団長が絡んでくると思ったんだよなぁ。

 しかし、今回は俺の前に二つの壁が存在している!


「騎士団長! 私と模擬戦をしましょう!」

「俺ともお願いします!」

「なんと! ユリアにアラタではないか! いいぞ、やるか! がははははっ!」


 ……ふっ、さすがは戦闘狂の二人である。

 俺はサニーを頭に乗せたまま、壁際に移動して二人の模擬戦を観戦することにした。

 隣にはアリーシャと森谷もいて、必死に二人を応援している。

 そして、魔の森で激闘を繰り広げてきた二人のレベルやステータスはすでに騎士団長を超えている。

 勝敗に関しては明らか……だと思ったのだが、さすがは歴戦の勇士である騎士団長だ。

 レベル差やステータス差を跳ね返し、それぞれと対等に渡り合っている。


「あの人、ものすごく強いねぇ」

「森谷もそう思うか?」

「うん。経験から来る勘というか、第六感というか、それがものすごく鋭い気がするよ」

「第六感ねぇ。……そんなもの、本当にあるのか?」


 疑問に思い問い掛けてみたのだが、どうやら俺が考えている第六感と、森谷が口にしている第六感は全く異なるものだった。


「僕が言う第六感っていうのは、職業が与えるものだね」

「地球で言われていた特殊能力的なものとは違うってことか?」

「そうでもあり、違うともいえるね。この世界でいう第六感は、魔導師(神魔)だと魔力を感知する能力に長けていたり、勇者とかだと悪意に敏感になったり、そんな感じかな」


 うーん……つまり、職業に合わせた第六感が働くってことか。


「騎士団長は特級職の剣聖で、新と同じだな」

「なるほどねー。だから、同じ剣聖でも経験から来る部分であの人が善戦しているのかぁ」

「剣聖だと何がわかるんだ?」

「主に剣気と言われる剣の意思かな。使い手が次に狙おうとしている部分を敏感に感じ取れるんだよ」

「……それ、最強じゃないか?」


 なんとなく二人とも剣を振る前に動いているなぁと思っていたが、そういうことだったのか。

 ……あれ? でも、おかしくないか? 先に狙う部分がお互いにわかっているなら、あえて剣を振らなくてもいいんじゃないのか?


「桃李君の言いたいことはわかるよ。二人はねぇ、それらのやり取り、牽制をすでにしているんだよ」

「……えっ? ということは、あの一瞬、一瞬でそれら全てをやりながら、最終的に狙っている場所へ剣を振っているってこと?」


 俺の言葉に森谷はニコリと笑いながら頷いた。

 騎士団長はともかく、新までそこまでの思考をしながら剣を振っていたなんて……剣聖、恐ろしいなぁ。


「そうなると、拳王はどうなるんだ?」


 剣聖の新とは別に、もう一人模擬戦をしている人物がいる。

 すでに騎士団長に負けてしまったが、ユリアにも第六感が働いているはずだ。


「拳王の場合は野生の勘みたいなものかな」

「……野生の勘?」


 なんだろう、ユリアにはピッタリな第六感な気がする。


「剣気が斬撃に対して強い力を発揮できるとすれば、野生の勘は全ての物理攻撃に対して敏感に反応することができる」

「はい? それって、剣聖よりもすごくないか? 全ての物理攻撃ってことは、斬撃も含まれるじゃないか?」

「そうなんだけどねー。その密度に違いがあるんだ」

「……難しいなぁ」


 森谷が言うには、剣聖は斬撃に対して非常に強く第六感を発動できるので、まず間違いなくその場所に斬撃が飛んでくる。

 しかし、拳王の場合はこの辺りに攻撃が来るという、ぼんやりとした感覚でしかないのだとか。

 これが遠くからの攻撃になればなるほど、その密度も薄くなるらしい。


「獣とかって、遠くから狙っていたも気づいたりするだろう? あんな感じかな」

「なるほどなぁ。……斥候として使えれば敵を瞬時に見つけられそうだな」

「いえいえ、特級職を斥候に使うって、ものすごくぶっ飛んだ考え方だからね?」

「禁忌魔法で生き永らえていた森谷に言われたくはないぞ?」


 俺がぶっ飛んでいるとすれば、きっと森谷はその何倍もぶっ飛んでいるはずだ。


「……二人とも、大して変わらないと思いますよ?」


 そんな俺たちの横でアリーシャがそんなことを呟いていたが、俺は聞こえないふりをしていた。

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