第204話:温泉とおもてなしと騒動と 6
しばらくして食堂に集まった俺たちだが……なんだろう、いつもより人が多い気がする。
アリーシャやグウェインは当然ながら、今日はライアンさんにヴィルさんにリコットさん、落ち込んでいたはずのレレイナさんまで笑みを浮かべて料理を待っている。
俺の心配はなんだったのかと思わなくはないが、元気になってくれるなら良しとしよう。……美味しい料理は偉大だなぁ。
俺がそんなことを考えていると、厨房から意気揚々と真宮が顔を出した。
「できたよー!」
「「「「「「待ってました!!」」」」」」
全員の声が揃っているところを見ると、マジで楽しみだったんだなぁ。
そして、それはアリーシャたちだけではなく、円たちも同様だった。
「すみれちゃんのデザート、久しぶりだなぁ」
「私は漣の料理も楽しみかなー。食べたことないし」
「俺も久しぶりだから楽しみだな」
「私はシュリーデン国で食べていたけど、本当に美味しかったわよ」
そんな会話をしている間も料理がどんどんとテーブルに運ばれてくる。
給仕をしている人たちもごくりと唾を飲み込みながらで、ある意味で拷問に近い気がする。
あとで残りものを食べてくれることを願うばかりだな。
「前菜に和風ドレッシングのサラダ、スープはポタージュ、メインにコカトリスのニンニク照り焼きだ!」
まさか、こっちの世界に来て和風という言葉を耳にすることになるとは思わなかった。
だが、鼻孔をは確かに懐かしの香りを感じ取っている。
「……懐かしいなぁ」
俺も思わずそう口にしてしまい、ハッと我に返る。
いかん、いかん。これでは俺が真宮に負けたみたいじゃないか!
別に対抗する必要はないのだが、真宮のペースに飲まれると後々面倒になる気がするので、できるだけ平静を保っておきたい。
「全員のテーブルに行き渡ったかー? それじゃあ――いただきまーす!」
「「「「「「「「「「いただきまーす!!」」」」」」」」」」
……まさか、『いただきます』まで揃ってくるとは思わなかったぞ。
「うわあっ! とっても美味しいです、マミヤさん!」
「スープも美味しいよ、姉さん!」
「おぉ、力が漲るかのようだ!」
「うん、うん! 美味い!」
「私なんかがこんな美味しい料理を食べてもいいのかしら?」
「実家でも、王都でも、こんなに美味しい料理は食べたことがありません!」
それぞれが感想を口にしていく中、円たちも料理に舌鼓を打つ。
「本当だ! 真宮君、すごいね!」
「へぇー! 人は見かけによらないのねー!」
「日本にいた頃よりも美味しくなっているじゃないか」
「だろー? これもスキルのおかげなのかもしれないけど、美味くなるなら問題ないよな!」
腰に手を当てて嬉しそうにしている真宮。
みんながそこまで言うなら、俺も食べてみるか。
……おぉ……うんうん……これは……ヤバい、止まらないなぁ。
サッパリとしたドレッシングのおかげでサラダも食べやすく、それでいて素材の味を殺していない。
スープはとても濃厚で、サラダとは違うアクセントを口の中に与えてくれる。
そして、これだ。というか、俺はこれだけでもいいかもしれない。
「……コカトリスのニンニク照り焼き、半端ないなあ!」
コカトリスの肉も美味いのだが、素材が持つ味をニンニクがさらに引き立て、照り焼きソースが絡み合い美味さが倍増している。
ここに米があれば文句はないが、さすがにそれは森谷でも難しかった。
シュリーデン国にも米はなかったようだが、広い大陸の中を探せばいずれ見つかるだろう。
今はパンで我慢するしかない……あれ? 俺、なんでこんなことを考えているんだっけ?
「……まあ、いっか」
美味い料理を食べている時に無駄なことを考えたくはない。
それは俺だけではなく、ここにいる誰もがそう考えていた。
静かな食堂には料理を堪能する声や音しか聞こえてこない。
食べ終わった者はその余韻に浸っており、すでに夕食へ思いを馳せている者までいるほどだ。
そして、全員が食べ終わったタイミングを見計らい――
「デザートもありますよー!」
屋嘉さんの声が厨房から聞こえてきた。
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