第202話:温泉とおもてなしと騒動と 4
翌日には先生とレレイナさんがシュリーデン国へ転移で向かうと、さらに次の日にはあっという間に温泉街へ戻ってきていた。
料理職の二人はこっちに来る準備をしていたのだろうか? というくらいの早さだ。
まあ、早いに越したことはないのでいいんだけどさ。
「みんな、久しぶりだな!」
「お、お久しぶりです」
元気よく挨拶をしてくれたのが、料理長の上級職を持つ真宮漣。
おとなしめな挨拶をしてくれたのが、菓子製造人の中級職を持つ屋嘉すみれ。
こういうやつだというのは知っているが、話をしたことはなかったと思う。
「久しぶりだな、真宮」
「すみれちゃんも久しぶりー!」
「二人とも、久しぶりだねー!」
しかし、話をしたことがないのは俺だけであって、円たちもそうであるはずがない。
気安く話し掛け、挨拶を返し、宿屋の一室は一気に賑やかになる。
「おぉーっ! マジで生きてたんだな、桃李!」
「……ん? 俺か?」
「この部屋に桃李はお前しかいないだろうが!」
まさか真宮から声を掛けられるとは思わず、俺は何度もまばたきを繰り返しながら驚いてしまう。
「……まあ、そうだな」
「なんだよお前! そんなキャラだったんだな!」
「そんなって、どんなキャラだよ」
「どんなって、おとぼけキャラ?」
「とぼけてないからな?」
「そうなのか? ならあれか、天然だな!」
「天然でもないから!」
いやいや、俺よりも真宮の方が天然だろう!
俺は新に助けを求めようとしたのだが、どうやら助ける気は全くないらしい。
目が合ったにもかかわらず、ただ頑張れの意味を込めたガッツポーズを返されてしまった。
「なあ、桃李! 日本の調理器具があるって先生から聞いてたんだけど、マジなのか?」
「ま、まあな」
「それを桃李が作ったってのも本当なのか!」
「……まあ、一応は」
「すげーな! 桃李も料理するのか? 俺はするぜ! 料理大好きだからな!」
「お、俺はしないからな! 真宮、勘違いしているぞ!」
「そうなのか? でもまあ、調理器具があるのはめっちゃ嬉しいからいいか! そうそう、俺のことは漣でいいから! 苗字読みとか、同級生でなしだろう!」
……こいつ、天然でありながらマイペース過ぎるだろう。
正直、ちょっと面倒だわ。
「あ、あの、真広君?」
そこへ控えめに声を掛けてきたのは屋嘉さんだった。
この人は大丈夫だろう。控えめな感じだし。
「屋嘉さんも久しぶりだね」
「う、うん。あの、本当に無事で、よかったです」
「あはは。まあ、奇跡が重なって生き残れたようなものだからな」
「なあ、桃李! 調理器具を見せてくれよ!」
「お前はもう少し俺の無事を祝え!」
「祝ってるぞ! 良かったな、桃李!」
……もういいや。
面倒を抱え込むのは嫌なので、俺は真宮の希望通りに調理器具があるところへ案内することにした。
「こっちだ。アリーシャ……いや、こっちの領主にはもう挨拶とか済ませているんだろう?」
「えっと、あの……」
「どうしたんだ、屋嘉さん?」
「まだだ!」
「……はい?」
おい、真宮。お前、まだって言ったのか? 挨拶もしないで、真っすぐにこっちに来たのか?
「……先生?」
「そのー……真宮君、言うことを聞かなくって」
「なあなあ、桃李ー? いいだろー? 見せてくれよー?」
……はああぁぁぁぁ。こいつ、根本的にダメな奴かも。こんなんに陛下へ出す料理を任せてもいいんだろうか。
「ダメだ! まずは領主に挨拶からだろうが!」
「えぇ~? それよりも調理器具を――」
「こっちだ、ついて来い!」
「こっちに調理器具があるのか?」
「あるわけないだろうが! 領主に会うんだよ! 屋嘉さんもいいよな?」
「あっ、うん。お願いするね」
「やだやだー! 調理器具がみたいー!」
「駄々をこねるな! 新、力づくで連れてこい!」
「お、俺か!?」
当たり前だろう! 俺に全てをなすり付けようとしたんだから、とばっちりでも食らっておくんだな!
というわけで、俺たちは真宮を引きずるような形でアリーシャが待つ部屋に連れて行ったのだった。
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