第200話:温泉とおもてなしと騒動と 2

「それは大丈夫よ。みんな自由にやっているし、体制が変わってからは縛られるようなこともないもの」

「みんな? ……えっ、もしかして料理職のやつって一人じゃないのか?」


 俺が驚きの声を漏らすと、アリーシャたちも目を見開いて先生に視線を向けた。


「そうよ。上級職が一人と、中級職が一人。二人とも元から料理が好きだったみたいで、手際もいいのよ」

「素晴らしいです! あぁ、早くお会いしてみたい! そして、食してみたい!」

「アリーシャ、心の声が駄々洩れだぞ?」


 というか、隠すつもりもないみたいだ。

 俺が指摘してもただ上を見上げて美味しい料理を想像しているかのようだった。


「まあ、それだけすごいなら任せてもいいんじゃないか?」

「当然です! 任せましょう、ハルカさん!」

「うふふ、決定ね。それじゃあタイミングを見て、シュリーデン国に向かうことにするわ。レレイナさん、よろしくお願いね」

「あっ、はい。わかりました」


 転移魔法陣を使うにはレレイナさんの力が必須である。

 先生が声を掛けると、レレイナさんは返事をしてくれたものの、どこか心ここにあらずといった風に見えてならない。


「料理はみんなが到着してから考えましょうか。森谷さんのおかげで日本の調味料や家電がありますし、珍しい料理を提供できると思いますよ」

「あははー。家電に関しては桃李君が頑張ってくれたから、僕は何もしていないよー」


 しかし、会議はドンドンと進んで行くので誰もレレイナさんの様子には気づいていない。

 俺の勘違いであれば問題ないのだが……やっぱり、あとで聞いてみようかな。


「ねえ、先生。料理職の生徒って誰なんですか?」

「私の予想だと、すみれちゃんかなー?」

「二人ということなら、真宮まみやもいるぞ」


 異世界人の話題ということで、円たちは興味津々だ。

 俺はというと、正直あまり気にしていない。

 名前の挙がった奴らは料理上手なんだろうけど、俺は全く関わったことのない奴だったからなぁ。


「大正解! その二人だよ。真宮君が上級職の料理長チーフシェフ屋嘉やかさんが中級職の菓子製造人パティシエールよ」

「漣君って料理上手だったんだ」

「すみれちゃんも上手なのにねー」

「男子の間では真宮の料理上手は有名だったからな。弁当にたかる奴もいたくらいだぞ?」


 ……俺、男子なのに全く知らなかったんですけど。


「私がシュリーデン国でいただいた時は、真宮君が本格的な料理で、屋嘉さんがデザートを担当していたかしら」

「あぁーっ! 先生、それを言わないで!」

「すみれちゃんのケーキ、美味しかったよねー」

「俺も久しぶりに真宮の弁当を食べてみたいものだ」


 そしてお前もたかっていた組なんだな、新よ。


「み、皆さんの話を聞いていると、私も食べたくなってきました!」

「僕もだよ、姉さん!」

「ハルカさん、絶対に連れてきてくださいね!」

「もちろんです」


 盛り上がっている先生たちを尻目に、やはりレレイナさんだけは上の空だ。

 俺はこっそりと移動して彼女の隣に移動すると、どうしたのかと声を掛けてみた。


「レレイナさん」

「えっ? あ、あれ? トウリ様、いつの間に?」

「なんだか元気がなさそうだけど、どうしたんだ?」

「そ、そうですか? あはは、そんなことないですよ?」


 何やら誤魔化そうとしているが、わかりやすいなぁ。


「何か問題があったら言ってくれよ。俺に相談できなくても、頼りになる人は結構多いと思うしな」


 アリーシャや先生は特に頼りになりそうだし、経験豊富な人ということなら異性だけどライアンさんとかもいる。

 レレイナさんに近い人ならセバスさんやニコもいるだろう。

 俺がそう伝えると、彼女は少し驚いたように目を見開いたあと、苦笑を浮かべながらも小さく頷いた。


「……ありがとうございます、トウリ様。でしたら、後ほどご相談に乗ってもらってもいいですか?」

「俺でよければ構わないよ」


 気づけばおもてなし会議は佳境を迎えており、しばらくしてお昼前に終了したのだった。

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